井戸端会議開催経緯
ここ最近、何回かオンラインでワークショップをやってみて思ったことに、参加者の方がまだzoomなどオンラインシステムに慣れておらず、意見交換の枠組みをはっきり決めすぎてしまうと、枠組みの理解に時間がかかってしまい、一番盛り上がりたい会話が弾まないという経験をしました。もっと、自由に意見を発することができないと、面白いと思えないかもしれませんし、学びが少ないと思うかもしれないと考え、思いついたのが枠組みのない井戸端会議をやってみようということでした。思いついたらやってみないと、ということで急遽数日で参加者を募り、2020年3月20日14時から1時間、「スローなオンラインコーチング井戸端会議」と称して、zoomを使って1時間だけのんびり話をしてみました。
フリーと言っても、何でもありにしてしまうと、それこそ何の学びもない場になってしまう危険性も考えられたため、一応の枠として、以前に公開していた効果的なコーチングに必要なコーチの知識ビデオをネタとして設定しました。
10名の枠に対して、6名の指導者の方々が参加してくださり、我々の研究チームのメンバー4人(私も含め)が参加し、全部で10人となりました。みんなが話せる、なかなか良いサイズ感でした。ただ、専門の競技種目が偶然に偏っており、外部の参加者の方はバスケットボールかバレーボールを専門とする方でした。スタッフはバレーボール2人、競泳と陸上競技が1人ずつでした。
まず、それぞれがビデオをみた感想を自由に語りました。しかし、専門的知識、対他者の知識、対自己の知識のそれぞれをどのように認識しているかが異なっていると、この後の共通理解が作りにくいと思い、それぞれについて、どのような要素から構築される知識なのかをみんなで意見を出し合うことにしました。
専門的知識
まずは専門的知識(Professional Knowledge)についてです。専門的知識として挙げられたものは以下のようなものでした。
競技
戦略・戦術
ルール
技術
プレースキル
チーム運営
チームビルディング
スポーツ科学
バイオメカニクス・力学・動作学・流体力学
スポーツ生理学・運動生理学
スポーツ心理学
トレーニング学
栄養学
統計学
スポーツ医学
多様な学問的・実践的知識
教育学・教授法Pedagogy,
成人学習理論Andragogy
経営学
成長戦略
対他者の知識
次に対他者の知識(Interpersonal Knowledge)について話し合い、以下のものが挙げられました。
問いかけ(クエスチョニング;傾聴と表裏一体)
傾聴(問いかけと表裏一体)
観察力
感情知性
文化的知性
共感力(選手の心情を把握する能力)
他者の関心に思いを寄せる力
対他者の知識を話しているときに、面白い意見が数多く出てきました。問いかけが重要だということはよく聞くけれども、問いかけが逆効果となることもあるのではないか、どういうときに問いかけが有効で、どのような場合に問いかけがマイナスな効果を出してしまうのかというところが特に盛り上がった内容であったと思います。ここについては「じゃあ、この点について、別の井戸端会議やりましょう」となり、いったん次に進むことにしました。
対自己の知識
対自己の知識(Intrapersonal Knowledge)として次のものが挙げられました。
自己認識、内観力、無知の知、自分らしさ
自分を律する力(省察、マインドセット、自己管理、感情知性、メタ認知)
成長志向
そして、自己認識の方法論として、
内省(他のコーチと相対化)
映像で振り返る、音声の記録・振り返り、文字おこし
記録(日記・感情を言葉にする・考え方)
座禅、メディテーション
他者評価(360度)
同僚とのミーティング
客観的な評価テストによる自己評価、他者評価(EQを数値化)
カウンセリング、メンタリング
などが挙げられました。
ここでの面白い議論の一つが、対自己の知識が優れていれば、専門的知識や対他者の知識は後からでもついてくるというものでした。確かに自分の能力を向上させようという意識の乏しい人は、たとえば自分のコミュニケーションに問題があるとは気づかないでしょう。たとえば、この井戸端会議に参加してくださっている方々は、すでに学ぼうという意志の強いかたで、対自己の知識がすでにある程度のレベルに達している人なのだろうと思います。問題はこの対自己の知識をどう身につけていくのかというところです。私に具体的な案があるかと言われると、明確なことはなかなか言えないなと思ってしまいます。これからまた修行です。
このテーマもなかなかエキサイトしてきたため、今後、対自己の知識をテーマとした井戸端会議をやりましょうということにしました。
3つのバランス
この3つの知識のバランスについても話題に上がりました。コーチングの対象によって必要な知識のバランスが異なってくるかもしれないという意見もありました。3つの知識はお互いに関係し合っていて、完全に分けられるものではないという議論も行われました。これまた定義の話になってしまいますが、コーチを専門職とすれば、コーチに必要な対他者の知識や対自己の知識は専門的知識に含まれてしまうのではないかという疑問も浮かんできます。ただ、今、このように3つに分けて話すことによって、これまであまり焦点が当てられてこなかった対他者の知識(特にコミュニケーション)や自らを改善する能力を表す対自己の知識にスポットライトを当てることが可能で、多くのコーチに対他者と対自己の知識の重要性を訴えかける役には立つと思います。
おわりに
今回、突然の思いつきにお付き合い頂いた参加者の皆さんと、とても楽しい時間を過ごせたことがとても嬉しく、もうこの井戸端会議を井戸端会議シリーズに格上げしようと思いました。現場で様々な悩みを抱えているコーチの皆さんから意見を聞きながら、一緒になって少しでもコーチングスキルを向上させていく糧になればと思います。ぜひ、気軽に遊びに来てください。(伊藤雅充)■
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