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どのようにGame Senseメニューを作成するか

 原礁吾です。前回の記事では、“Game Senseがなぜ良いのか?”について学習観や修正されたゲーム中心の練習と伝統的な練習の効果を比較した研究について紹介しました。今回の記事では、Game Senseメニューの作成方法について紹介させていただきます。コツが分かればメニューを考えるのはそこまで難しくないので、是非チャレンジしてみてください。また、作成方法を説明した後に簡単なGame Sensemメニューの例も紹介するので、チームで実施してみてください。本題に入る前にお断りしておかなくてはなりませんが、私がラグビーコーチということもあり、話がラグビーに寄っています。それぞれのスポーツに置き換えて考えてみてください。



Game Senseメニューの作成方法

 Game Senseとは名前の通り、デザインされたゲームの中で戦術的な知識、スキル遂行能力、意思決定能力などを身につけることができます。デザインされたゲームとは、ゲームに様々な制限(Constraints-led:制限誘導)を設けて選手たちが実戦に近い環境で学習していくことです。起したい現象を起こすために、あるプレーが発生しないようにしたり、また、発生しやすいようにしたりします。獲得したいスキルがある場合は、そのスキルがゲームの中で多く発生するように、ゲームをデザインしていきます。

 ゲームをデザインする際に用いるものが、STEPSと呼ばれるものです。STEPSとは、

  • Space(スペースを変化させる:コートの大きさ、形など)

  • Task(ルール、タスクを変化させる:パスの回数、アタック回数、ゴール数など)

  • Equipment(道具を変化させる:ボールの大きさ、形など)

  • Peopleを変化させる:人数、体格など)

  • Speed(スピードを変化させる:時間制限、早歩きなど)

の頭文字をとって合わせたものです。これらを用いて、ゲームをデザインしていきます。カッコ内のものは一つの例に過ぎないので、ご自身のチームの取得したいスキルや課題に合わせて変化させることが必要です。


 次に、私の修士論文から“Game Senseメニュー作成のコツ”と“Game Senseメニューの作成手順”を紹介していきます。


[Game Senseメニュー作成のコツ]

①チームビジョンの設定

 チームビジョンの設定というのは、ラグビーであれば、チームでどのようなAT戦術、DF戦術を行うかということを決めることです。チームが始動する前にチームビジョンを決めておかないと、チームとしての軸がぶれてしまいます。


②メニューの課題設定(課題を明確にする・課題の構成要素を考える)

 ここでは、どのような課題をチームが抱えているか、また、その課題というのはどのような要素で構成されているかという事を理解することが重要になります。


③課題解決の計画

 課題や獲得したいスキルがどのようなプロセスを経て発生するかという状況を考え、そしてそのプロセスを起こすための制限を計画します。さらに、どのような状況が起きているかを認識させる発問を計画します。


④仮説の検証

 メニューを実施している中で、必要であればレベルを調整したりします。適切であれば発問を行い、解決に導いてあげます。


⑤観察と評価

 メニューの制限が適切であったかどうかを検証します。観点としてはルールが複雑になりすぎていないか、狙いとする状況を引き起こすことができていたか、レベルが適切であったかどうかを考えます。


[Game Senseメニューの作成手順]

①長期的なアウトカム

 最終的にどのようなスキルや知識を身につけたいかを記述します。


②短期的なアウトカム

 1回、もしくは複数回のセッションで身につけたいスキルや知識を記述します。例えば、長期的なアウトカムのところでスライドDFというものを設定した時に、ここではその長期的なアウトカムの構成要素を記述します。例えば、スライドDFを行うためには、連携、ポジションニング 、視野の使い方などがあります。それらの中で、どの部分を意識させて取り組ませるかを記述します。


③起こすべき現象

 短期的なアウトカムを獲得するための現象を記述する。


④環境設定

 起こしたい現象を起こすための具体的な制限やルールを記述する。


⑤発問例

 短期的なアウトカムを獲得するために必要な発問例を考える。

(Game Senseでは直接教えるのではなく、発問や環境から気づきを与え、間接的に学習を発生させることを狙いとしているため発問は重要になります。私は発問を考える際に、認知、意思決定、戦術理解などに分けて考えて作成してました。)


⑥修正案

 メニューが簡単すぎたとき、もしくは難しすぎたときのために調整できるように別の案を考えておく。


 上記のメニュー作成のコツとメニュー作成手順は、あくまで私が実践を通じて獲得したもののため、ご自身のチームに適したものに修正する必要があります。

 発問例のところでも書きましたが、Game Senseは選手らが自分で解決策を考えることに大きな意味があります。そのためには、ある現象が何度も繰り返し起こるような条件設定をコーチがして、選手たちにある経験させて解決法を自分で考える機会を与え、何度もトライ&エラーをしながら気づきを促す必要があります。それを実現させるために、最近、大切だと感じていることがあります。あるプレーだけを制限したり、簡素化することで狙いとする現象が自然と起こせるということです。いくつも制限をかけるより、シンプルに一つだけ制限したりすると意外とうまくメニューを作成する事ができるかもしれません。


[Game Senseメニュー例]

メニュー名:オフロードタッチ(タックル、ボール争奪なしのラグビーです)

獲得できるスキル:オフロードパスと言われる、タックルされながら、グランドに寝ながらパスをするスキルです。


①コートの大きさ

・ラグビー、サッカー場の4分の1程度の大きさ。人数によって調整する。


②タスク(制限やルール)

・DF側のプレーヤーはタッチをしたら、グランドにダウンしてから参加する。

・AT側のプレーヤーはタッチされたら、グランドに寝ながら、もしくは寝てから見方にパスをする。

・DF側がAT側を3回タッチ、ノッコン、スローフォワード、トライが発生したら攻守交代。


③人数

・8人から(4vs4〜)スタート。人数が少なすぎると体力的にキツくなるので8人くらいからが適当だと思われるが、状況によって変化させる。


④スピード

走るスピードで行う。


⑤発問例

・実際の試合の中でオフロードパスの成功率を高めるためには、どのようにしたら良いか?

・オフロードパスを受ける人はどのようなコースを走れば、タックルを受けにくく突破しやすくなるか?

・オフロードパスを受ける人は、ボールキャリアに対してどのようなサポートができるか?

・DF側のプレーヤーはどのようなコースを走れば、オフロードパスを妨げる事ができるか?


 

 今回の記事でGame Senseに関する私の3連載を終えます。Game Senseやゲーム中心の練習では、文脈の中で学習することを大切にしています。ドリル練習では、コーチが獲得して欲しいスキルを選手たちに伝えることは簡単ですが、そのスキルや戦術的な知識を“いつ使うのか”、“どのように使うのか”、“どのように見るか”を理解させることは難しくなります。スキルを遂行する際に重要なのが、スキルを遂行するための手がかりを知っていることです。手がかりを知っていれば、実践の中で手がかりを用いて必要となるスキルを遂行することができます。

 また、Game Senseの中で効果的な学習を発生させるためには発問が鍵となります。闇雲に選手たちにプレーさせるのではなく、鍵となるシチュエーションが発生した時に適切なタイミングや内容で、発問をできるかが重要になります。実際にGame Senseを題材にした研究でも、発問を行うことの困難さが報告されています(Evans and Light, 2008)。適切なタイミングでの発問や発問の内容が選手の学習の鍵となるため、非常に大切です。最初から上手く発問をすることはできないので、事前準備したりする事をお勧めします。

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