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マイクロコーチングを使ってコーチングスキルを向上させる


 皆さん、はじめまして。日本体育大学体育学部コーチング学系助教の廣岡大地です。まず簡単に自己紹介を行いたいと思います。私は2020年に本学大学院を修了しました。修士論文ではコーチのファシリテーションスキル向上を目的としたアクションリサーチ(自分のコーチングをビデオに撮影し、それをネタに指導教員や仲閒たちとミーティングをしてコーチングスキルを数ヶ月かけて向上させていく研究)を行いました。その後、神奈川県にある高等学校の非常勤(保健体育)として働きながら硬式テニス部のアシスタントコーチとしてアスリートに指導を行っていました。そして4月からは日本体育大学助教として働いています。現在指導現場がなくなってしまい探し中なので、もし紹介していただける方がいましたら是非ご連絡ください!


 では本題に入りたいと思います。現在スポーツ科学やテクノロジーの発展が著しく、それに伴いコーチに求められるスキルや能力もより高度で多様化してきています(日本コーチング学会,2017)。その為、コーチは過去に受けてきたコーチングや行ってきたコーチングに囚われないようにし、常にコーチング現場に適した新しいコーチングスキルを身に付けるよう努力しなくてはなりません(平野ら,2019)。今回はコーチが新しいコーチングスキルへの理解をより深め、身に付ける手法の1つである「マイクロコーチング」を紹介していきたいと思います。


マイクロコーチングとは

 マイクロコーチングとは、心理的に安全な状況下でコーチが新しいコーチングスキルを身に付けるために少人数で行う実践的なトレーニングです(NCDA,2021)。それぞれ役割を決め、時間を決めてセッションを行い、セッション終了後、お互いにリフレクションやフィードバックを行います。ここまでの過程を1サイクルとし、全員が全ての役割を経験するまで繰り返す手法です。日本やヨーロッパのコーチ育成プログラムに導入されており、今ではコーチだけでなくコーチを育成するコーチ(コーチデベロッパー)の養成プログラムにも導入されています(European commission,2017)。

 その一つの例としてNSSU Coach Developer Academy(略称:NCDA 日本語名称:日本体育大学コーチデベロッパーアカデミー)が挙げられます。NCDAとは日本体育大学がスポーツ庁より委託を受け、国際的なコーチデベロッパーの養成とコーチデベロッパーの国際的ネットワーク構築を目的としたプログラムです。小グループを組んで、アスリート役・コーチ役・コーチデベロッパー役の3つの役割を設定し、グループ内で役割をローテーションさせながら、各人が全ての役割を経験できるようにします(日本体育大学、2017)。それぞれの役割が目まぐるしく変化するため、目的のコーチングスキルに対して異なる立場から判断して行動をしなくてはなりません。その結果、そのコーチングスキルに対する深い理解が可能になったと述べられています(NCDA,2021)。

 Vickersの研究では、Decision Training(意思決定トレーニング:以下DT)を身に付ける事を目的とし、コーチを対象に1週間で40時間のマイクロコーチングを用いたワークショップを実施しました。その結果、DTスキルを身に付け、DTに関する理解をより深めることが出来たと報告しています(Coaching Association of Canada,2001)。Katieら(2019)は、コーチの能力向上を目的とし、マイクロコーチングとE-Portfolio(学習者の成果、そしてそこに至るまでの過程を記録し集め電子化したもの)を組み合わせたセッションを実施しました。その結果、コーチが自身の強みと弱みを認識し、理論的・実践的知識を得る事が出来たと述べています。


マイクロコーチングのためのプロセス

 優れたコーチは単に優れた技術だけでなく、卓越した対人関係能力や分析力を持ち合わせており、参加者の潜在的能力を引き出すことが出来ます。このことからコーチは何を指導するか(what -to- coach)という知識だけでなく、どのように指導するか(how-to-coach)というコーチングスキルが非常に重要です。what-to-coachについては様々なスポーツ科学の知識やそのスポーツの戦術などを学ぶことができますが、それらを知っているだけではよいコーチングスキルを有しているとは言えません。マイクロコーチングはhow-to-coachスキルを心理的に安全な環境で向上させることができる方法論だと言えるでしょう。

ここで簡単にwhat-to-coachとhow-to-coachについて補足をしたいと思います。What-to coachとは走る、蹴る、ゾーンディフェンスなどアスリートが成功するための技術や戦略を指導するスキルのことを指します。How-to-coachとは、アスリートの可能性を引き出す、信頼関係の構築、活動を安心・安全に計画・実行するなど組織的、対人的、分析的なスキルのことを指します。

 マイクロコーチングを使ったHow-to-coachスキルの獲得のためには、以下のプロセスをたどることが効果的であると報告されています(NCDA,2017)。


  • Introduce(導入):「今日は○○○の方法・仕方(どのようにコーチンを行うか)について学び、コーチングの内容(What to coach)については×××スキルを用います」と伝える

  • Key point(キーポイント):「コーチング内容」で用いるスキルについて確認する

  • Micro-coaching(マイクロコーチング):コーチがマイクロコーチングを開始する。ここで注意して欲しい点がある。それはアスリート役を行っている時もコーチとしての思考を続けること

  • Review(レビュー):一定のプロセスに従って「どのように行ったか」をコーチが振り返ることが出来るようにする

このプロセスは、各要素の頭文字をとり「IKMR」プロセスと呼ばれています。


おわりに

 コーチングスキルを身に付ける手法として世界各国で用いられ始めたマイクロコーチングですが、日本ではマイクロコーチングに関する文献はあまりなく、論文に関しては1本もありません。

 しかし、日本スポーツ協会(JSPO)のコーチ養成講習会で実際に活用されており、国際コーチングエクセレンス評議会(ICCE)が作成した「International Sport Coaching Framework」や「International Coach Developer Framework」内で表記されていることから、マイクロコーチングは質の高いコーチングスキルを身に付けるために有効な手法であると私は思います。ただ、実際に行ってみないと分からない部分もあると思うので、興味のある方々と一緒に試してみたいと思います。

【廣岡大地】


【参考文献】

  • Coaching Association of Canada(2001)Canadian Journal for Women in Coaching Online。Vol.3,No.3.

  • European commission(2017)European Sport Coaching framework.

  • 平野裕一,土屋裕睦,荒井弘和(2019)グッドコーチになるためのココロエ.18-26

  • International Council for Coaching Excellence(2014)International Coach Developer Framework.

  • International Council for Coaching Excellence(2012)International Sport Coaching Framework.

  • Katie Dray and Kristy Howells(2019)Exploring the Use of E-Portfolios in Higher Education Coaching Programs.International sport coaching journal,2019,6,359-365

  • 日本コーチング学会(2017)コーチング学への招待.12-25.

  • NSSU Coach Developer Academy(2017)NSSU-ICCE coach developer programme:facilitation skills handbook.

  • NSSU Coach Developer Academy(2021)スポーツ庁委託事業スポーツ・アカデミー形成支援事業平成26年度~令和2年度 事業報告書.

  • NSSU Coach Developer Academy(2021)NCDA Learning to be a Coach Developer.

  • Penny Crisfield(1999)’Using Micro-coaching to Teach Coaching Skills’.


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