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コーチの「対自己の知識」


 修士2年の玉田です。皆さん、感染症対策はできていますか?大規模なイベントが続々と中止になっている中、3月15日に開催予定だった日本体育大学大学院の修了式、3月17日からの日本コーチング学会の学会大会も中止になってしまいました。残念ではありますが、今はしっかりと感染拡散を防ぐために皆で協力すべきときであると理解し、前に進もうと思っています。


 さて私が以前担当したのブログ記事で、コーチに必要な知識は「専門的知識」「対他者の知識」「対自己の知識」があると紹介しました。そして、これまでに「専門的知識」「対他者の知識」について解説をしてきました。前回からだいぶ時間が空いてしまいましたが、今回は「対自己の知識」について解説していきます。


 この記事のもとになった文献はこちら↓

Defining Coaching Effectiveness, A focus on coaches’ knowledge, Gilbert, W. & Côté J. In: Routledge handbook of sports coaching, eds by Potrac, Gilbert and Denison. Pp.147-159. 2013.


 以前の記事はこちらから。

 

対自己の知識(自分の実践から学ぶ能力)

 対自己の知識は「自己の理解、および内観と省察の能力」と定義されています(Côté and Gilbert 2009)。優れたコーチには自己認識をする力が必要になってきます。自分の強みは何なのか、自分に足りないものは何なのか知っておく必要があります。しかし、それを知っておくだけでコーチとして成長していくことはできません。よりよいコーチングを行っていくためには、自分の能力を適切に認知し、それを踏まえた上での行動をしていかなければなりません。効果的なコーチングを行っていくために自己認識を使っていく行動をあらわす言葉として最も用いられるのがリフレクション(省察:reflection)です。


コーチの省察

 多くの研究者がスポーツコーチの省察について研究し、その中で省察を「内的な学習状況」「コーチの認知構造に存在するアイディアの再考行われるところ」(Wherthner and Trudel 2006)と表現しており、非公式な学習機会の一種であると説明しています(Mallet et al. 2009; Nelson et al. 2006)。


 ショーンによれば、経験を通した知識形成は実践でのジレンマの中、およびそれについての省察によって行われる。このことを省察的対話(reflective conversation)と呼んでいる。これら省察的対話では評価(課題の設定)、行動(実験)、再評価(課題の設定)のスパイラルを繰り返していく。実践で見つかる課題が省察的対話の引き金となる。課題自体は実践者が彼らの役割をどう見ているのかによって境界が引かれる。これをロール・フレームと呼ぶ。


 よく少年漫画の主人公が強い敵と戦って負けそうになっている時に、心の中で状況を事細かに分析して新しい必殺技を編み出すような場面があると思います。コーチングの文脈でも主人公と同じように選手の状態を分析して、コーチがその時に最善であると考えられる行動を起こしていきます。ロール・フレームがフィルターとしての役割を果たし、それを通して課題が構築され、戦略が策定されることから、省察を理解するには重要となる考え方であるそうです。


3つの省察

 現在、3つの省察があると言われています。


①行動中の省察(reflection-in-action)

 これは省察的対話が行われているときに行動が伴っています。つまり、試合中や練習中にコーチングをしている最中のリアルタイムな行動の中での省察のことを指します。試合中に相手が作戦を変更した時にそれに適応するためこちらにも作戦の調整が必要になりますが、その時コーチは反射的に判断して試合中の選手に指示を出したり、タイムアウトをとったりなどのコーチングを行います。


②行動に対する省察(reflection-on-action)

 これは①行動中の省察と違って、省察的対話が行われているときに行動が伴っていません。何か出来事が起こったあと、その出来事を解決するための潜在的な解決策を考えてみることがあてはまります。試合中に相手が作戦を変更してそれに適応するための調整が必要でも、新しい作戦をするまでに少し待ったりするかもしれません。試合の状況など、コーチングの決定に影響を与える無数の要因に応じて、適切なタイミングまで決断を少し先延ばしにすることがあります。


③行動に対する回顧的省察(retrospective reflection-on-action)

 この省察は①や②と違って、出来事が起こってからずっと後に省察的対話が行われます。シーズン中に戦略を変更しなかったとしても、オフシーズンに今シーズン中の省察を行い、次のシーズンに向けて新しい戦略を練ったりすることがこれに相当します。

 ①や②の省察は明らかに時間的要素と注意能力による制限を受け、単に非現実的である場合も少なくありません。「おそらく、行動に対する省察と行動に対する回顧的省察が、より現実的な方法としてコーチの個人内知識の能力を向上させるのに用いることができると考えられる。」とコティとギルバートは言っています。どのようなタイプの省察であっても、より「現実の状況に近い(situated)(Lyle 2010)」省察的対話がより意義深いものになると考えられます。


 私が優秀であると思う指導者は、選手が練習後に日誌をつけて競技力向上に励んでいるように、自分自身のコーチングを見直し改善しています。そのためか、継続的に素晴らしい結果を残しています。私はこれまでの記事で、専門的知識も対他者の知識も大事であると述べてきましたが、対自己の知識がコーチにとって最も重要な知識であると考えます。「コーチングの現場は混沌としている」「コーチングは構造化された即興である」と言われています。すなわち、似たような状況はあっても全く同じ状況は二度やってこないため、その場の状況を適切に読み取って意思決定をし、行動を起こしていかなくてはならないことを意味しています。二度と同じ状況がこないからといって行き当たりばったりのコーチングばかりしていても選手は勝てないと思いますし、コーチ自身にも成長はありません。複雑な状況の中で適切な判断ができるようになるために、対自己の知識を磨いて、自分のコーチングを見直していくことが良いコーチになるために重要なことのひとつであると思います。


まとめ

 これまで3回にわたって、効果的なコーチングを実施するためにコーチに必要とされる3つの知識についてまとめてきました。みなさんは3つのうち、すべてをしっかり使ってコーチングしていたでしょうか? 私個人的には、優秀で経験豊富な指導者の方々は3つの知識を持ち合わせ、状況によって使っているのではないかと思います。私も指導をする立場になって2年目ですが、知らないこともたくさんあり、上手くコミュニケーションが取れなかったり、反省することばかりです。しかし、これからこの経験を活かして学んで実践していくうちに、3つの知識はついてくるのではないかと思いました。時間が解決してくれることだけに任せるのと、「コーチに必要な知識は3つある」と思いながら経験を増やしていくのでは成長するスピードが違うのではないかと思います。プレーヤー時代の結果がなくても、理論に基づき経験を積み重ねていくことで素晴らしい指導者が生まれると思っています。(玉田理沙子)■

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