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コーチの「対他者の知識」

 修士課程2年生の玉田です。現在、修士論文審査の真っ只中ですが、ひとふんばりして、「コーチの知識」の続編をお届けしたいと思います。前回、コーチの知識には3つにまとめて考えることができるということを最初にお伝えしました。その3つとは「専門的知識」「対他者の知識」「対自己の知識」です。前回は専門的知識について扱いましたので、今回はその次の「対他者の知識」をお届けしたいと思います。そこでも触れたのですが、コーチの知識といった場合、宣言的知識(WHAT)と手続的知識(HOW)の両方を含んていることに注意してください。つまり、対他者の知識といった場合、他者と良好な関係を構築したり維持したりするにはどうすればよいかという理論を知っているということ(今回はこちら側)だけでなく、実際に他者と良好な関係を構築することができるスキルを身につけているということも含まれます。


 この記事のもとになった文献は↓

  • Defining Coaching Effectiveness, A focus on coaches’ knowledge, Gilbert, W. & Côté J. In: Routledge handbook of sports coaching, eds by Potrac, Gilbert and Denison. Pp.147-159. 2013.

 コーチの知識に関するこれまでの記事




対他者の知識(人間関係に関する知識)

 スポーツを指導する際、コーチはひとりで動いているわけではありません。自分のコーチングが効果的であるかは、コーチングの対象がどうなったかによって判断されますし、アシスタントコーチや、保護者、他にもさまざまな人と関わりを持たなければなりません。人間関係のスキルや社会的なスキルはコーチングを行う上で重要になってきます。

 最近の理論的な考察によれば、コーチングは複雑で、社会的な相互作用系にもとづいて相互に影響しあうプロセス(coaching is a complex, reciprocally influential process based on systems of social interactions.)であることが示されてきた。人を導くときに必要となる人間関係のスキルと社会的スキルは、コーチングの人間的側面と呼ぶこともできる。

優れたリーダーや教師、コーチなどになるためには対人スキルが重要であると述べられてきましたが、十分に研究されているとは言えない状況です。


感情知性

 対他者の知識はさまざまな要素から構成されると考えられますが、ここでは他者理解やコミュニケーションに深く関わっていると言われる感情知性(こころの知能:emotional intelligence)についてみてみることにします。感情知性を理解するアプローチ法として、混合アプローチ(mixed approach)と能力アプローチ(ability approach)の2つがあるとされています。


 混合アプローチでは感情知性を、感情に関する能力と、自己認識や自己動機といったパーソナリティ特性を含むものとして概念化している。一方、能力アプローチでは感情知性を開発可能で客観的な手法を使って測定可能な能力と捉えている。


 チャンとマレット(2011)は、ハイパフォーマンスコーチについても感情知性フレームワークが適用でき、感情の知覚、使用、管理能力が重要であると報告しているようです。ギルバートとコティは、メイヤーとサロベイ(1997)による、感情の

  1. 同定(identifying)

  2. 使用(using)

  3. 理解(understanding)

  4. 管理(managing)

という4ブランチモデルによる感情知性の定義づけを紹介しています。これらの能力はコーチがアスリートのモチベーションを高めたり、計画立案、意思決定をしたり、チームを作っていくような時に必要とされる人間関係のスキルや能力であるとしています。これらがどのように説明されているかをみてみましょう。


 最初のブランチである感情の同定は、他人の思いを感じ取る能力や建設的な方法で感情を表現するといったスキルが含まれる。2つ目のブランチである感情の使用は、適切な手がかりに注意を向けさせるように感情を用いたり、意志決定や問題解決を促進させるために感情を起こしたりする能力である。3つめが感情を理解することで、感情の原因を認識する能力や感情間の関係を理解するといった能力に関係している。4つめが感情の管理であり、その人の感情に意識をはらい、感情の本質的な意味を理解し、効果的に感情の状況を解決していく能力のことである。


 効果的なコーチングを行うには感情知性を高めることが重要であることが読み取れます。私自身、どちらかというと自分の感情を表現するのは苦手ですが、人の感情を読み取るのは得意であると思っています。前回の記事でも書きましたが、放任主義のコーチングであれば、ギルバートとコティが提示した4つのブランチモデルは一つも使えないということになりますし、トップダウンなコーチングであれば、アスリートの感情を理解するのは難しいかもしれません。アスリートセンタードなコーチングを考えるときに、自らの感情知性を高めていこうという意識を持って、日々のコーチングに取り組んでいくのもよいと思います。


私の文脈で考える対他者の知識

 私が所属している剣道部には140名ほどの部員がいます。大学の部活動であれば、同じような大人数で活動をしているところもあると思います。部員一人ひとりを、監督(ヘッドコーチ)は誰がどんな人間で、何をしているのか、どのような状態なのかというのを把握するのも大事であると思いますが、これだけの人数、把握するのには無理があります。そこで、アシスタントコーチやスタッフのいる場合、これらの人が部員たちとコミュニケーションをとったり観察したりして、監督へアシストしていくことが大事であると思いました。私もアシスタントコーチとしてしっかり機能できるように対他者の知識をしっかりつけたいと思います。


剣は心なり

 私は「対人的知識」の内容を読み、記事にまとめつつ、これが非常に大事な知識であるとつくづく思いました。スポーツを実践する人のメンタルの状態によってパフォーマンスが左右されると思います。剣道でよく使う言葉に「剣は心なり」というものがあります。心の状態がそのまま剣道の稽古や試合に表れるという意味であると理解しています。充実しているといい剣道になり、イライラしていると雑で乱暴な剣道になります。悩みごとがあると迷いのある剣道になります。自分の周りにいる優秀であると思う指導者たちは、選手の表情や稽古内容をいつも観察しています。また、その時声をかけた方がいいのか、もう少し選手自身に考えさせた方がいいのか、選手の性格も考慮して対応しています。私も選手として活動しているときは、よく悩んだりうまくいかなくて不安になったりすることがありました。そのような時にいただく先生からの声掛けは自分のパフォーマンスの改善や向上させることに非常に役立ちました。

 現在、修士課程1年生の長久保君が感情知性(EQ)や文化的知性(CQ)などについての記事をまとめています。対他者の知識を構成する要素はこれら以外にもたくさんあり、それらが複雑に絡み合って作用していると考えられます。まずは相手を知り、自分を知り、自分の思考や行動を制御していくことを日頃から心掛けていくことを私自身が挑戦したいと思います。(玉田理沙子)■

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