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日本のハイパフォーマンス・パラコーチ育成の現状と課題(世界コーチ会議でのプレゼン)


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2025年11月20日からギリシャ・アテネで国際コーチングエクセレンス評議会主催の世界コーチ会議が開催されており、その中でハイパフォーマンスコーチの育成についてのセッションが行われました。このセッション、通常の参加者にも公開されておらず、ノミネートされた15か国程度の代表者だけが集まって、お互いの取り組みを紹介し合いました。私(伊藤)もパラコーチ育成についての現状を日本大学の橋口先生、伊佐野先生とともに情報提供してきました。


私たちの資料タイトルは「Supporting High Performance Para Coaches' learning: Examples from Japan」でした。内容は以下のようなものでした。


日本のパラスポーツにおけるコーチ育成は、長年にわたってボランティアや福祉的支援を基盤に発展してきたため、競技力向上のための専門的コーチングが十分に体系化されていないことが課題となっています。多くのコーチは、家族・教師・学生ボランティアなど“支援者”としてスポーツに関わり始めるため、パフォーマンスコーチングの基礎を学ばないまま上位の役割に進むケースが少なくありません。結果として、HPコーチでも基礎的スキルの再構築が必要となる場合もあります。また、講義中心の資格制度が実践的能力の開発につながっていないことも課題として挙げられます。


こうした現状がある中、日本体育大学はスポーツ庁の委託を受け女性エリートコーチ育成プログラム(Women Elite Coach Development Program:WEC)を展開し、その中でパラコーチの育成も行いました。WECでは、現場での実践を中心に据えた職場埋め込み型(workplace-embedded)・ブレンド型学習機会の提供を行い、コーチの実践力強化を進めてきました。OJT、ワークショップ、メンタリング、振り返りなどを組み合わせ、コーチ一人ひとりの能力を段階的に可視化しながら成長を支援しました。日体大が受託した2期(4年間)で、10名のパラスポーツ関係者が参加し、そのうち7名が現在ナショナルチームのコーチまたはサポートスタッフ等として活動しています。


さらに、私と橋口先生は日本パラリンピック委員会(JPC)の強化本部員として、東京2020後からパリ2024にかけて、ナショナルコーチを対象に基礎的パフォーマンスコーチングの再構築を目的とした継続的専門能力開発(CPD)を実施してきました。ここでは基礎コーチングスキルの開発、競技横断のケース検討、個別アクションプラン作成といった支援を行っていました。


一方で、パラコーチが育つパスウェイが存在しないという構造的課題もあり、今後は、WECでの取り組みを参考にしながら、継続的に成長できるパラコーチ育成パスウェイを整備することが重要な方向性となるだろう考えています。


他の国も、それぞれが行っている実践例をポスターにまとめており、とても参考になりました。これらのポスターを事前に共有してから、アテネでの会議に臨むという、いわゆる反転授業のような形でこのセッションが行われました。実際のセッションでは、最初に次の6つのテーマを設定し、参加者が小グループに分かれて意見交換をしました。


  1. Communities of Practice(コミュニティ・オブ・プラクティス)

  2. Selecting and Preparing Coach Developers and Mentors(コーチデベロッパー/メンターの選抜と育成)

  3. Women in Coaching(女性コーチ育成)

  4. Supporting Current vs Future High Performance Coaches(現職のHPコーチ vs 将来のHPコーチの支援)

  5. Extraordinary Athletes / “Prema Donna” Issues(例外的才能の扱い・プレマドンナ問題)

  6. Identifying Individual Learning Needs of Coaches(コーチ個別の学習ニーズの特定)


次に行われたのが、少人数グループの「自国のハイパフォーマンスコーチ育成で直面している最大の課題」を出し合うというアクティビティでした。挙がったのは、


  • パラと健常のコーチ育成のアラインメントとパスウェイ

  • コーチ育成プログラムに必要なパスウェイと時間

  • コーチ教育とハイパフォーマンスコーチ育成(教育システム)のアラインメント

  • アラインメント不足 ― 協会内のシステムが分断され、HPコーチングを推進できない

  • 倫理的コーチング|コーチにとってのセーフスポーツ ― 監視や報復を恐れずに良い実践ができる環境

  • ハイパフォーマンス領域における女性コーチ

  • 高度に教育を受けた人材のコーチング領域への移行

  • ハイパフォーマンスコーチの離職防止

  • コーチのリーダーシップの複雑性|個別最適化された育成プログラム

  • ソーシャルメディア・テクノロジーの影響とプレッシャー ― コーチ・スタッフ・アスリート間の関係性

  • 文化的課題 ― 他者による評価・査定のプレッシャー

  • コーチを支援・育成するリソース不足

  • コーチングプール ― 国際的な人材確保の課題

  • コーチ育成の成果のインパクト ― 現場での適用

  • コーチデベロップメントの人材基盤


などです。どこの国も同じような悩みを抱えていることが分かります。ただ、ハイパフォーマンスのコーチ育成は、どの国も誰もやったことがないことに挑戦しているのであって、みんな手探りで行っていることも事実です。今回のような機会があることで、お互いから学び合うことが可能となり、自国のシステムをよりよいものに変化させていくことが可能になると思います。

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