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STB第2回「効果的なスキルトレーニングとは」

更新日:11月18日

 第2回の授業では、どのようなスキルトレーニングが効果的なのかを考えていきます。まず次の質問に答えてください。

【質問1】

 今日の授業のテーマは「スキル」トレーニングです。このスキルという言葉は何を意味するものでしょうか。スキルに似た言葉として「テクニック」がありますが、スキルとテクニックの違いは何でしょうか。


 この先を読み進む前に、質問に対する回答を書いてみてください。頭の中で考えるだけでなく、文字として書いてみることが重要です。スポーツのスキルトレーニングと同様、頭で理解した「つもり」になっているだけでは十分な理解とはいえません。書いたり話したり、アウトプットすることで自分が本当に理解しているのか、どこが自分がつまづいていることなのか、本当は適切に理解していないかもしれないということを知ることができます。うまく説明できなくても心配しなくて大丈夫です。おそらく、自信を持って適切に答えられる人は少ないと思います。ここでは、正解を言うことが重要なポイントではなく、うまくできないかもしれないことにチャレンジすること自体が重要です。

 では、スキルとテクニックの違いを考えながら、スキルとは何かについてみていくことにしましょう。テクニックとスキルをそれぞれに漢字で書くと技術と技能となります。テクニック(技術)はワザそのものを指す言葉として使い、スキル(技能)とは能力、つまり何かをうまくやる能力を意味します。

 少し例を挙げて説明した方が分かりやすいと思います。皆さんは字を書きますね。字を書くというテクニックを持っていたとしても、字を「うまく」書くスキルを持っているとは限りません。この場合の「うまく」は時に教科書的な「きれい」を意味しているかもしれませんし、書道家が書く「芸術的」なものかもしれません。そこに目的があり、その目的を達成するために、どの程度合目的的なパフォーマンスを発揮することができるかが問われるのがスキルです。テクニックはスキルを構成する要素であると言えるでしょう。字を書くスキルに関して言えば、他にどのような構成要素があるかを考えてみましょう。字を書く目的が何なのか、字を書く文脈(その場面が持つ特徴)が何なのかなど、いろいろ考えられます。

 今度は話すスキルについて考えてみましょう。私たちは日本語を話します。日本語を話す技術を持っていますが、TPO(Time:時、Place:場所、Opportunity:機会・場合)によって、どのような言葉を使うかを選ぶ必要があります。日本語を話す技術を持っていたとしても、相手にどう「うまく」伝えることができるかという日本語のコミュニケーションスキルを有するかどうかは分かりません。大学でも、同じ内容の授業を扱っていても担当する教員によって学生が感じる内容の面白さに違いがあるでしょう。テレビのニュース番組をいくつかみて、同じような内容を伝えているアナウンサーやニュースキャスターがどのように伝えているのか、そのスキルに焦点を当てて観察してみてください。

 スポーツの例を出しましょう。サッカーのリフティングテクニックが高い人が、必ずしも試合で活躍できるわけではありません。リフティングテクニックをいつ、どのように使っていくのかといった状況判断がともなった形でできるかどうかが、試合では重要となります。バレーボールでは、オーバーハンドパス、アンダーハンドパス、スパイクといったテクニックを、ポイントをとるためにアタックというスキルとして使います。テニスで、コーチが球出しするボールを正確に的に向けて打てる人が、対人のラリー、特に試合になると別人のようになることも珍しくありません。ボールを打つテクニックはあったとしても、相手とのやりとりのなかでポイントを取るというスキルとしてうまくテクニックを活用できない人も多いのです。

 高度なスキルを発揮する人の多くは高度なテクニックも有している場合が多いでしょうが、それらが必ずしも一致するものではないと理解しておくことが重要です。特に効果的なスキルトレーニングをするためには欠かせない観点となります。試合の要素を切り刻んで、細分化された技術に落とし込み、それを細かく練習していったとしても、それはテクニックの練習としては機能するかもしれませんが、スキルのトレーニングになっていない場合が少なくないのです。個々の練習はうまいのに試合ではうまくパフォーマンスが発揮できないといった人が身の回りにいませんか。もしかすると、技術は上手いけれど、本当に試合で必要なスキルのトレーニングができていないのかもしれません。試合で活きるスキルを身につけるためには、状況判断やチームメイトとのコミュニケーション、駆け引きといった試合の中で重要なスキルの要素を保ったままでスキルトレーニングを行っていく必要があるのです。

 いかがでしょうか。スキルとテクニックの違いを理解しておくことは、この授業を展開していくにあたって、とても重要です。私たちがこの授業で話題にしているのは、テクニックにとどまらない、スキルであることに注意してください。では、次にどのような練習が効果的なスキルトレーニングなのか、逆に効果的でないスキルトレーニングとはどのようなものか、それらの理由は何かを皆さんの経験から考えてみましょう。これについて考える際には、メンタルを強くする、体力を向上させることが主な目的になっているものは除外しましょう。これらの要素についてはスポーツトレーニング論Aやスポーツトレーニング論Cで扱う内容です。もちろん、スキルには心理や体力の要素も深く関わってくる訳ですが、これらを扱い始めると焦点がぼけてしまうので、とりあえず、ここでは議論しないこととします。

 再度、質問として明示しておきます。

【質問2】

① あなたの過去を振り返り、どのような練習が効果的なスキルトレーニングだったと思いますか? 最低3つ挙げてみましょう。

② それぞれ、なぜそれが効果的だったのでしょうか。そのメカニズム(理由)について分析してみてください。

【質問3】

① あなたの過去を振り返り、どのような練習が効果的でないスキルトレーニングだったと思いますか? 最低3つ挙げてみましょう。

② それぞれ、なぜそれが効果的でなかったのでしょうか。そのメカニズム(理由)について分析してみてください。

 今回のライブ遠隔授業の際には、特にこのテーマについて授業参加者でディスカッションしましょう。過去の授業で、質問2と3、そしてメカニズムについて考えた結果、次のような効果的なスキルトレーニングを行うためのチェックリストができあがりました。皆さんも、このリストを更に洗練させられるような意見をだしてください。

日体生が考えた効果的なスキルトレーニングチェックリスト

  • 対象のニーズに適したメニューであるか

  • 長期的な目標と合致した練習になっているか

  • アウトカム(目的・目標)が明確な練習か

  • チーム内で共通認識がとれているか

  • 実戦的であるかどうか

  • 状況判断を伴う練習になっているか

  • 適切なスキルで行われているか

  • 十分な反復が確保されているか

  • 練習にかける時間は適切か

  • 学習者の主体的な取り組みが確保できているか

  • ポジティブかつ挑戦できる雰囲気が確保できているか

  • 適切なフィードバックが提供できているか

  • 心身のコンディションが整っているか

  • 質と量の組み合わせが適切か

  • 障害等のリスクマネジメントができているか

 このチェックリストを使って、自分自身のスキルトレーニングを評価してみましょう。15項目が挙げられていますが、皆さんは何項目に対してYESと答えることができるでしょうか。これらの項目の理論的背景や具体的な対策については、今後の授業の中でもいくつか扱います。具体的には、運動学習理論、フィードバック、非線形の運動学習理論(TGfUやGame Sense)といったことを学んでいくことになります。

 これらのチェックリスト項目全ての背景には、コーチング学で学ぶアスリート・センタード・コーチングがあります。スキルが上手くなるのは、コーチが一生懸命になるかどうかが重要ではなく、学習の主体であるアスリートがどのようにスキルトレーニングに取り組むかが鍵となります。この授業でいえば、受講している皆さん自身が話を聞くだけでなく、主体的に学びに参加する必要があります。アスリート・センタード・コーチングについて学ぶ際にはコーチとしてどのような思考や言動が必要なのかを学びますが、実はコーチだけでアスリート・センタード・コーチングが成り立つ訳ではなく、コーチングの良し悪しはコーチとアスリートの相互関係によって規定されるものであることを理解しなくてはなりません。学習の主体であるアスリート、この授業でいえば受講者の皆さんが学習の責任を負わなくてはならないのです。

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