

勝たせることだけが、コーチングの成果なのか
こんにちは。伊藤です。 学部のコーチング学授業で「アスリートに導く結果」という回があります。スポーツの指導というと、多くの人はまず「強くすること」「勝たせること」を思い浮かべるかもしれません。実際、競技スポーツの現場では、勝敗や結果が強く意識されます。しかし、コーチングを学問として考えていくとき、成果はそれだけでは捉えきれません。授業ではまず、そのことを確認するところから始めました。 近年のコーチング研究では、効果的なコーチングとは、そのコーチングが行われる文脈において、コーチが専門的知識、対他者の知識、対自己の知識を駆使しながら、アスリートの有能さ、自信、関係性、人間性を高めていく営みであると整理されています。これらは英語でCompetence、Confidence、Connection、Characterと表現され、4つの頭文字Cを合わせて、4C's(フォーシーズ)と呼ばれています。勝たせることだけを目的にしてしまうと、この4つのうちの一部しか見えなくなりがちです。たしかに競技力が上がることは重要ですが、たとえば競技力は伸びても、自信を失わせ

伊藤雅充
4月25日読了時間: 10分


“勝たせたい”が生む影 - 制御の心理を読み解く
高体連のマガジン第50号に、「学びを導くコーチング」シリーズ第1回として「“勝たせたい”が生む影 - 制御の心理を読み解く」を寄稿しました。 指導者が選手に「勝ってほしい」「伸びてほしい」と願うこと自体は、ごく自然なことです。けれども、その思いが強くなりすぎたとき、支援する関わりは、知らず知らずのうちに「制御する関わり」へと変わってしまうことがあります。 本稿では、そうした制御的な指導に見られやすい特徴として、次の6つを取り上げました。 ❶ 報酬を約束して行動を取らせようとする ❷ 否定的なフィードバックや批判を感情的に用いる ❸ 価値観や目標を押しつけ、監視や干渉を強める ❹ 脅しや罰、屈辱を与えるような威圧的手法をとる ❺ 選手同士を競わせ、優劣によって自尊心を揺さぶる ❻ 望ましい行動のときだけ関心を示し、そうでないと距離を置く こうして並べると極端に見えるかもしれません。しかし実際には、熱心な指導のつもりであっても、こうした関わりが入り込んでしまうことはあります。だからこそ大切なのは、指導を善意だけで捉えるのではなく、その関わりが選手の学

伊藤雅充
4月24日読了時間: 2分


HOPEとは何か
ここ2年間、私はスポーツ庁委託事業「ポストスポーツ・フォー・トゥモロー推進事業(国際情勢に応じた海外アスリート等支援事業)」の運営責任者として携わってきました。日本体育大学の我々のチームではこの事業を、SFT-NSSU HOPE Project(High-performance support for Overseas Para-athletes under Emergency Project)と名付けて展開してきました。このHOPEという愛称、最初はそれとなく、よい響きだなというイメージで付けたのですが、事業を進めるにつれて、どんどんと深みや拡がりを持った言葉になっていきました。そもそも「HOPE」とは何なのでしょうか。この事業で何が起こっていたのか、どのようなインパクトが現れているのかを、この場で紹介をしていきたいと思います。 HOPEプロジェクトは、紛争や災害などによって、自国で十分なトレーニング環境を確保することが難しい海外パラアスリート等を日本に招へいし、トレーニング機会や関連支援を提供する事業です。ここまで聞けば、比較的シンプルな構造

伊藤雅充
4月16日読了時間: 5分


マレーシア次世代コーチのビジョン
こんにちは、伊藤です。 日本国内だけではなく、諸外国のコーチ育成やそのシステム構築の支援を行っています。その中のひとつが、マレーシアで行っている次世代コーチの育成プログラムです。30歳以下の若手コーチに成長機会を提供しようという、マレーシア政府のスポーツ統括機関である National Sports Council of Malaysia(MSN)が主催しているプログラムなのですが、その運営に私もプログラムアドバイザーやファシリテーター、コンテンツエキスパートといった様々な立ち位置で関わらせて頂いています。 そのワークショップの中で、10年後のハイパフォーマンスコーチングのビジョンを話し合ってもらって、参加者全員が少しずつのパートを担当し、ひとつのストーリーを紡ぐというアクティビティを行いました。そこで語られた内容がとても素晴らしく、夢を感じたのもあって、ここでも紹介させてもらおうと思います。実際にはマレー語や英語で語られた内容をAIでまとめたものになります。日本語のあとに英語、そしてマレー語が続きます。 このような思いを持った若者たちと関わるこ

伊藤雅充
4月9日読了時間: 11分


教わりたいコーチと教わりたくないコーチ像
日本スポーツ協会のスポーツコーチングリーダー(SCL、共通科目Ⅰ)講習会の講師をすることが年に何度かあります。1日の対面講習(事前・事後学習があるため、講習自体が1日で終わるわけではありません)の中で、受講者がたくさん自分の意見を語り、他の受講者の声に耳を傾け、手を動かし、体を動かし、頭を働かせます。そこに講師である私も加わり、楽しく講習を進めています。 この講習の後半部分で、これまでの学びをもとにグループで「教わりたいグッドコーチ像と教わりたくないコーチ像」を見える化してもらっています。基本、お絵描きするのですが、大人になってからの真剣なお絵描き、なかなかの見ものです。 そして先日、とても興味深い絵を描いてくださったグループがありましたので、それを紹介させて頂こうと思います。 どちらがどっちか判別つくでしょうか。特に文字がないので想像するしかありませんね。 左側が「教わりたいコーチ」、右側が「教わりたくないコーチ」です。 左側の「教わりたいコーチ」では中央にある植物がアスリートとのこと。コーチは土や水、太陽のような、アスリートが自分の花を咲かせ

伊藤雅充
2025年12月15日読了時間: 2分


Application Scienceとしてのコーチング学
コーチング学とは何をする学問なのか? 日本体育大学で大学院のコーチング学系を設置した際、国内外の多くの専門家と議論を重ねました。そこで得た感覚は、今もなお私の中に強く残っています。私はコーチング学を「コーチング実践に直接関わる学問」として捉えています。かつて私が取り組んでいたバイオメカニクスや運動生理学、トレーニング科学は、広義のコーチング学に含まれる重要な分野であるものの、それ自体がコーチング学ではありません。コーチングに“役立つ”学問であっても、コーチング学“そのもの”とは異なる。私はそう考えています。 今回は、その考え方が形成される上で重要な影響を与えた経験について紹介します。 イギリス訪問で得た気づき 日本体育大学は平成23〜25年度に「文部科学省大学スポーツ研究活動資源活用事業」を受託し、体育教師およびコーチの専門能力向上に関する研究を行う機会を得ました。特にコーチング能力に関する部分は「コーチ実践指導力の向上プログラム開発」というテーマで調査・研究を進めました。 その一環として、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、ニュ

伊藤雅充
2025年11月24日読了時間: 5分


日本のハイパフォーマンス・パラコーチ育成の現状と課題(世界コーチ会議でのプレゼン)
2025年11月20日からギリシャ・アテネで国際コーチングエクセレンス評議会主催の世界コーチ会議が開催されており、その中でハイパフォーマンスコーチの育成についてのセッションが行われました。このセッション、通常の参加者にも公開されておらず、ノミネートされた15か国程度の代表者だけが集まって、お互いの取り組みを紹介し合いました。私(伊藤)もパラコーチ育成についての現状を日本大学の橋口先生、伊佐野先生とともに情報提供してきました。 私たちの資料タイトルは「Supporting High Performance Para Coaches' learning: Examples from Japan」でした。内容は以下のようなものでした。 日本のパラスポーツにおけるコーチ育成は、長年にわたってボランティアや福祉的支援を基盤に発展してきたため、競技力向上のための専門的コーチングが十分に体系化されていないことが課題となっています。多くのコーチは、家族・教師・学生ボランティアなど“支援者”としてスポーツに関わり始めるため、パフォーマンスコーチングの基礎を学ばない

伊藤雅充
2025年11月22日読了時間: 4分


「実力が出せなかった」—それが実力
試合や大会のあとによく耳にします。 「今日は実力が出せませんでした。」 でも、私はこう思うのです。 「実力を出せなかった」——それが実力です。 厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、運動学習の側面から見れば自然なことです。おそらくは「普段のトレーニングではもっと上手くできているのに」という思いから、そのように言っているのだろうと予想します。このような場合、一度、実力とは何か?を考えてみる必要があると思います。そして、普段のトレーニングの仕方を見直してみる必要があると思います。 指導者もアスリートも、トレーニングでできれば試合でもできるはずと思っているかもしれません。ただ、それは試合とトレーニングがしっかりとつながっている場合にのみ当てはまることです。言い換えれば、 オーセンティック(正統性、本物さ)なトレーニング ができているのか否か。ここがズレていれば、試合の場面で、トレーニングでのパフォーマンスが発揮できなくても当然です。 また、パフォーマンスは 変動 するもの、あるいは 平均回帰 するという性質を理解できているかどうかも重要な観点です。よ

伊藤雅充
2025年11月20日読了時間: 3分


勝負は勝たなければ意味がない?
今朝、電車の中で、ある広告に著名なアスリートの顔写真とともに「勝負は勝たなければ意味がない。そんなことは当たり前だ。でも、ただ勝てばいいのだろうか。相手を傷つけない…」と書かれているのを見かけました。 どういう意味で「勝たなければ意味がない」と言っているのかと疑問に思いました。本人の言葉なのかも分かりませんが、アスリートが時折口にする「勝たなければ意味がない」というのに、いつも首を傾げてしまう私なので、今朝も「ん?」と思ったのでした。私自身は、勝負に挑戦すること自体に意味があると思っています。結果はあくまでも副産物。 ただし、勝負の結果はどうでもよいとは思っていません。私も勝ちたくてたまりません。負けるのはいやです。 「勝たなければ意味がない」という時の「意味」とは何なのでしょうか? 「勝つ」ことによって得るものは何で、その意味とは? その何かを得られなかった場合に失うものとは? たとえば、プロ選手が勝たなければ収入がゼロになる、解雇される、といったような場合があるならば、収入を得るためには勝たなければ意味がないとかいうのであれば、ある程度は理解

伊藤雅充
2025年11月16日読了時間: 2分


「してあげる」と「任せる」のあいだで
皆さん、こんにちは。伊藤です。 先日、岡山県津山市で研修会の講師を務めさせていただきました。この研修会、同じ場に子ども・保護者・指導者が集まり、お互いに語り合うというユニークなスタイルをとってみました。さまざまな研修を担当させていただいていますが、一つの空間に三者が揃う研修は珍しく、私自身、これが上手くいくのか?という疑問も持ちながら、同時に私自身のスキルを伸ばすチャンス!と思いながら「学びの実験」をしてみました。 この研修に際して、とても興味深い質問を頂きました。それは、 親は、子どもにどこまで「してあげる」べきなのか? というものです。子育て、教育、スポーツの現場で多くの方が悩まれている課題だろうと思います。私自身親として、指導者として、教員として、同じような悩みをいつも抱えてきました。この問いに対して、その場でどのような話し合いがされたのか、私がどのようにその場で考えたのかをまとめてみたいと思います。 子どもたちの声を“待つ” 「親はどこまでしてあげるのがいいのか」。事前アンケートで、ある保護者から寄せられた質問を、そのまま子

伊藤雅充
2025年11月7日読了時間: 6分
