top of page

ゲーム中心の指導法(Game Sense)とは何か?



 2017年に日体大大学院コーチング学系を修了した原礁吾です。修士論文ではGame Sense活用に関するアクションリサーチを行い、自分のコーチング風景をビデオに撮って研究室で振り返りながら、Game Senseメニュー作りスキルアップやコーチ行動の改善などをしました。そして、現在では中高一貫校に非常勤講師として勤める傍ら高校ラグビー部のコーチとしても活動しています。現在の現場でもGame Senseを活用して練習メニューを組み実践しています。今回の記事を含め、Game Senseについて3部構成(①Game Senseとは何か、②なぜGame Senseなのか、③どのようにGame Senseメニューを作成していくか)で紹介していきたいと思います。


①ドリル練習とGame Senseの違い

 ドリル練習(伝統的な練習、従来の練習)とは、ゲームの一部を切り取り同じパターンを繰り返し練習したり、プレッシャーが無い状況で練習することを指します。ドリル練習を何パターンも組み合わせたところで、ゲームのような状況を表現することはできません。なぜなら、ゲームというものはとても複雑で、同じ状況が出現する確率はとても低いと言えるからです。そのため、ドリル練習で身につけたテクニックが不確定要素満載のゲームでスキルとして発揮できるかわかりません。一方、Game Senseはルールなどで制限されたゲームを通じて(Constraints-led:制限誘導)、スキル遂行能力、戦術的知識や意思決定能力を獲得することができます。ゲームを通じてこれらの能力を獲得することができるため、ドリル練習で獲得した能力よりも実践的であると言えます。


②Game Senseを行うことの利点

 ここでは、学術的な知見と私が感じたGame Senseの利点を紹介していきます。


学術的な知見

まずは学術的な観点から利点を紹介します。


1. 選手とコーチとの関係性に良い影響(Evans & Light, 2007)

 Game Senseを用いてコーチングした結果、コーチのコミュニケーションの取り方が独裁的ではなく対等で平等だと選手が感じたことがアンケートで明らかになっています。またその関係性が選手達から高い評価を得ることができました。TGfUに関する研究でもコーチからの一方的なコミュニケーションの取り方ではなく、対等で平等なコーチ・アスリート関係を築くことで有意義なコミュニケーションの取り方へと移行したと報告されています。


2.モチベーションの向上(Light, 2004a ; Evans, 2007, 2012)

 Game Senseの練習に変更した結果、練習中の映像やインタビューから選手のモチベーションが高まったと報告されています。また、選手に対するインタビューの中では練習内容がよりゲームに近い状況になり、楽しんで取り組んでいると答えています。


3.練習強度向上(Evans and Light, 2008)

 練習内容をドリル練習からGame Senseの練習に変更することで、よりゲームに近い強度で練習を行うことが可能になり,その結果,練習の強度が向上したと報告されています。


4.意思決定向上(Evans, 2006, Evans & Light, 2010)

 Game Senseの練習を実施する中でコーチ達は、Game Senseは制限が少ないため意思決定権限の多くが選手に渡ったり、鍵となる流れを見つけたりする能力を養えることができると認識したと報告されています。


5.練習でゲームに活かせるスキルを身につけられる(Light, 2004, Evans, 2007a )

 ドリル練習は制限やオプションが限定されているが、Game Senseではゲームのような文脈で練習するためゲームで活かせる戦術的な学習とスキルを開発できると報告されています。


Game Senseメニューを活用して感じた利点

 ここからは私が普段Game Senseメニューを実践して感じている利点をご紹介していきたいと思います。


 一つ目は、選手達の”発話量が増える”ことです。

 ドリル練習では待ち時間が増えるため、声を出しているのはプレーしている選手達のみになります。そのため、よくコーチが選手たちに「声を出そうぜ」、「元気出そうぜ」と待っている選手に声をかけていることがあります。多くのコーチは練習に活気があるか、選手が積極的に練習に参加しているかを選手たちの”声”で判断していると思います。その”声”がないとコーチは不安になるため、「声を出そうぜ」、「元気出そうぜ」と選手たちに促し声を出してもらい安心するのだと思います。しかし、このようなコーチの声かけに従って出した”声”というものは形式的に出されたものであるため、ゲームの中でははあまり役にたたずコーチの不安を解消するものにしか過ぎません。

 この声出し問題もGame Senseメニューを行えば多くの場合解決できます。Game Senseは一回練習に参加したら順番待ちする必要はないので、何もしないという時間がありません。つまり、全員が練習に参加しています。また、ドリル練習よりGame Senseの方が動きやポジションニングが複雑になる(することができる)ため、コミュニケーションを取らざるをえない状況になります。もし、コミュニケーション不足で”二人で同じ選手をマークしていた”などが見受けられたら、問いかけによって解消することができ、尚且つ次のプレーからは自分から声を出してミスを減らそうと努めるようになります。このような理由からGame Senseを行うことによって発話量を増やすことができると感じています。


 二つ目は、”考える力”が身につくことです。

 最近、世間でも子どもには考えさせることが大切だという認識が広まってきました。その影響もあり、多くのコーチが子ども達に”考えろ”と声かけしていると思います。しかし、ドリル練習や練習試合の中で考えてプレーしろと言われっぱなしになっていることが少なくありません。まず、考えるためには選手たちを一発では解決できない、しかし頑張れば何らかの回答にたどり着く問題に直面させてやることが大切です。何もない状況下で考えてやれというのはあまりに酷で、無責任です。そのため、選手たちを問題に直面させてあげるようにするためにも、Game Senseが威力を発揮します。上述したようにGame Senseは制限されたゲームを通じて、スキル遂行能力、戦術的知識や意思決定能力を獲得することができます。ルールを使って上手く制限することができれば、工夫をしないと得点を取ったり、相手からボールを奪うことができません。その結果、選手達は自らどのようにしたら上手くいくか、と考えるようになります。コーチがわざわざ”考えろ”と言わなくてもチームトークなどの振り返りの時間を取れば自分たちで考えてくれます。


 三つ目は”戦略的思考が鍛えられる”ことが挙げられます。

 これも二つ目の考える力と共通することですが、Game Senseではルールでさまざまな行為が制限されているため、なかなか上手くプレーすることができません。制限の中で上手くプレーするために、選手達はチームトークを効果的に使い、各チームが独自の作戦を考えて実行するようになるため、戦略的思考を鍛えることができます。


 四つ目は”本気になれる”、五つ目は”楽しんでプレーできる”です。

 ドリル練習だとどうしてもパターン練習や、課題を抽出して練習という形になってしまうため継続的ではありません。Game Senseはゲームを通じて練習を行うため、ルールを工夫すれば公式戦のゲームさながらの緊張感、勝った時の楽しさや悔しさなどを再現することができます。


閲覧数:4,473回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Commentaires


bottom of page