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子ども期のプレイとプラクティス



 今日は、私が講演や授業でジュニアスポーツについて語る際に頻繁に用いているスライドの元になっている文献を紹介したいと思います。Conditions of Children's Talent Development in Sport(2013)という書籍の第2章「Play and Practice during Childhood」の最初の部分です。執筆者はJean Côté, Karl Erickson, Bruch Abernethyです。

 Jean Côtéは私が尊敬するコーチング学研究者の一人で、私のテニス仲間でもあります。かなり競ります(笑)。とにかくボールを返してくるんです。そして攻めたい私が我慢できずミスをするという・・・。とりあえず、テニスのことは置いておいて、本題に戻しましょう。コーチング学研究をしている方は、さまざまなところで彼の名前を見かけたことがあると思いますが、特にユーススポーツの領域では素晴らしい業績をお持ちの方です。

 それでは、どうぞ。

子ども期のプレイとプラクティス

はじめに

 ユーススポーツには、スポーツパフォーマンスの向上、参加の促進、個の成長といったように、子どもの発達にさまざまな好ましい影響を与える可能性が秘められている(Côté & Fraser-Thomas, 2007)。パフォーマンス、参加、個の成長はお互いに関係し合っており、子ども向けのスポーツプログラムをデザインする際には、別々のものとして扱う事はできない。それゆえ、子どものスポーツを通した学習活動を開発するのに、パフォーマンスと個の成長に関することは統合された要素として考えなくてはならない。

 ブロンフェンブレーナーの環境理論(1977、1999)は、スポーツ参加を通してパフォーマンス向上と個の成長を研究していく統合的アプローチを提供してくれる(Carlson, 1988; Côté, Strachan, & Fraser-Thomas, 2008; Garcia Bengoechea, 2002を参照)。ブロンフェンブレーナー(1977)は人間の発達と人間の行動は、個−文脈相互作用の具現化であり、入れ子状のシステムが常時相互に影響を与え合い、特定の発達成果を生み出すという概念を提唱した。子どもの総合的な発達と健康についていえば、数多くの個の要因と環境要因とが相互に関係し合い、個人の人材開発の軌跡に影響を与えている。ガルシア・ベンゴエチェアとジョンソン(2001)は「スポーツ参加を促進する力を理解することは、スポーツ活動への参加を増加させる効果的なプログラムの開発と実施に貢献し、子どもの身体的、社会的、心理学的健康を推進する可能性がある」と述べている(p.20)。特定の学習環境における子どもの活動、つまり子どもの個−文脈相互作用は、スポーツの早期タレント開発プログラムについて分析する際に、調べてみると面白い重要な要素となる。コティら(2008)はプレイと練習活動(大人が同伴するかどうかは関係なく)が、個と環境の相互作用というメカニズムとして働き、スポーツにおける人材開発と人間的成長にとって重要な触媒となる。

子どものスポーツにおける発達に応じた活動

 スポーツにおいて参加を維持したり、タレントを育成するのに、どのような発達ステージにおいて、どのようなタイプの活動が重要なのか何年もの間、多くの研究がさまざまな観点から調べてきた。学習とスキル獲得についてまとめた総説で、エリクソンら(1993)は、最も効果的な学習は、デリバレット・プラクティスと呼ばれる高度に組織化された活動を行うことで起こると結論づけた。エリクソンら(1993)によれば、デリバレット・プラクティスを行うには、努力が必要で、即座の報酬もなく、内在的な楽しみよりもむしろパフォーマンスを向上させるという目的によって動機づけされることが必要だという。エリクソンら(1993)は、音楽のエキスパートパフォーマンスは生まれ持った能力によるものではなく、長期にわたるデリバレット・プラクティスの産物であるとした。彼らは、エキスパートパフォーマンスを発揮するようになるまでに、最低でも10年間にわたるデリバレット・プラクティスをやり続けなくてはならないとした。


 アスリートは、まず、楽しく遊び心たっぷりのゲームを通してスポーツを経験する傾向にあることを踏まえ、コティ(1999)はエリクソンらのグループ(1993)が提唱しているデリバレット・プラクティスの概念とは対極にあるスポーツ活動のことを“デリバレット・プレイ”と呼んだ。デリバレット・プレイは、本質的に面白く、即座の喜びが得られ、楽しさを最大化させるようにデザインされた、初期発育段階の身体活動のことである。ストリートホッケーや裏庭サッカーといったデリバレット・プレイ活動は標準のスポーツルールをもとに作られたルールがあり、その活動に参加する子どもや大人によってそれが守られるように管理される。また、幼年期、幼児期の身体的な遊び活動とは異なる(Denzin, 1975; Pellegrini & Smith, 1998; Piaget, 1962)。デリバレット・プレイは、ランニング、クライミング、ジャンプ、格闘ごっこといった身体活動の要素を持つものの、より組織化された特徴的な行動パターンがある。ペレグリニとスミス(1998)は、子どもが格闘ごっこのような身体活動で遊ぶことで、(1) 個別の運動パターンの制御を向上させる;(2) 子どもの持久力、筋力トレーニング、運動効率に貢献する;(3) 子どもの感情や認知パフォーマンスに貢献することを報告した。同じように、デリバレット・プレイを通した運動スキルの学習は、より複雑なスポーツスキルを有する年上の子どもでもみられた。格闘ごっこのような自由なプレイ活動は小さいときに非定期的に発生しているため、デリバレット・プレイは子どもが定期的に関わるスポーツタレント発達に関わる最初の活動タイプであると考えられる。


 デリバレット・プレイは、パフォーマンス向上のためにデザインされた特定の教育学的なゲームやプレイ(Teaching Games for Understandingやプレイ・プラクティス、 Griffin & Bulter, 2005; Launder, 2001)とは異なる。また、組織化されたスポーツのような、構造化された練習とも異なる。目的がパフォーマンス向上にあるデリバレット・プラクティスの活動概念とも大きく性質を異にする(Ericsson, 2001; Ericsson et al., 1993)。まとめると、デリバレット・プラクティスとデリバレット・プレイは、いくつもの部分で性質が異なり、一つの軸で表せば両端に位置する、お互いに対となる活動である(Côté, Baker, & Abernethy, 2007)。デリバレット・プレイとデリバレット・プラクティスを両端におく連続体の中ほどには、アスリートのパフォーマンスやスポーツのモチベーションに関係する3つの別の活動タイプがある。


 デリバレット・プレイにもデリバレット・プラクティスにも該当しない、パフォーマンス向上を狙った特定の教育学的なゲームあるいはプレイが一つ目に挙げられる。この一般的なカテゴリーの中にはTeaching Games for Understanding(Griffin & Bulter, 2005)とGame Sense(Light, 2006)のような、たくさんの活動タイプを含めることができるが、これらを一般に表す表現としてローンダー(2001)によって提案されているプレイ・プラクティスを用いることとする。プレイ・プラクティスは大人によってリード、あるいは処方されるもので、最終的な目的は、楽しさやゲームを強調しつつもパフォーマンスを向上させることにある。プレイ・プラクティス活動の重要な側面は、その年齢層の子どもたちが通常プレイするようなレベルのゲームをもとに楽しみながら学習ができるような活動をデザインすることである。


 デリバレット・プラクティスやデリバレット・プレイに分類できない2つめの活動が自発的プラクティス(spontaneous practice)である。自発的プラクティスは非公式学習の形をとる。教育学領域で、リビングストン(2002)は非公式学習を公式な教育機関やプログラムのカリキュラム外で起こる学習であると定義している。自発的プラクティスは、外発的−内発的の軸で考えると、デリバレット・プレイ活動とは異なる側に位置する。自発的プラクティスはスポーツスキルを向上させることが目的(外的価値)で自由時間に行うものである。しかし、自発的プラクティスでは、子どもたちは大人が作成したカリキュラムに従ったり、大人がいう最も大切なスキルを必ずしも練習しなくてもよい。自発的プラクティスは系統的、あるいは教育学的な観点から計画がされているものではなく、むしろ、ある情況のなかで散発的に発生するもので、子どもたち自身によって行われる活動である。


 最後のひとつが大人によって導かれる大会である。試合には集中力と努力が必要であるが、それであっても一般にはかなり楽しい活動であり、特にパフォーマンスを向上させるために構造化されているという訳ではない。大会の構造や本質的に備わっている要素をみると、ユーススポーツの様々な要素が詰まった独特の場であることが分かる。エリートアスリートの回顧的な研究(Baker, Côté, & Abernethy, 2003a)によると、大会は認知と意思決定スキルを発達させるのに最も有用なトレーニングとなるとされ、スキル発揮能力や体力向上にとってもかなり重要であると評価されている。大会は大人によって監督され、デリバレット・プレイとデリバレット・プラクティスの両方の側面を有したものだといえる。


 デリバレット・プラクティス、プレイ・プラクティス、自発的プラクティス、デリバレット・プレイ、大会だけが、子どもたちの全ての活動であるという訳ではない。しかし、これら5つの活動は、子どもがどのようにスポーツへ関わっていくのかを典型的に表したものであると言える。そのため、これらの活動それぞれが、子どもたちがスポーツに関わる中で出会うであろう多くの経験を代表させるのに適した分類型であると考えられる。


 デリバレット・プラクティス、プレイ・プラクティス、自発的プラクティス、デリバレット・プレイ、大会は多くの側面で異なるものである。これらの活動タイプそれぞれが、子どもが新しいスポーツスキルを学んだり、スポーツを継続するモチベーションに重要な役割を果たす。エリートレベルのアスリートが過去にどのような運動経験をしてきたかを調べた研究では、彼らは小さい頃からデリバレット・プラクティス、プレイ・プラクティス、自発的プラクティス、デリバレット・プレイといった、数多くの異なるタイプの活動をしてきたことが明らかになっている(例:Baker et al., 2003a; Berry, Abernethy, & Côté, 2008; Ford, Ward, Hodges, & Williams, 2009)。これらの研究から、様々なプレイやプラクティスの社会的文脈が子どもたちのその時と将来のスポーツ参加に対する様々なニーズを満たしてくれていることが示唆されている。内発的な動機づけによる自己統制型の、よりプレイ志向の高い活動は、大人がリードする、よりプラクティス志向で結果志向の活動と対比して考えられる。


 多様な子どものスポーツ活動が有する社会構造とスポーツ活動が子どもにもたらす個人的価値をもとに、それらの活動の特徴をまとめることが可能である(Hakkarainen, 1999)。その結果、デリバレット・プラクティス、プレイ・プラクティス、自発的プラクティス、デリバレット・プレイとそれらの特徴を、ハッカライネンの子どものプレイ学習と指導の分析をもとに、2軸に沿って概念化して表すことができる。一つ目の軸は、活動の社会構造を表すもので、どの程度の指示やアドバイスが監督する大人(つまり、コーチ)から与えられるのか、あるいは、参加する子どもが中心となっているのかというものだ。この軸の片方は、プレイ活動のように、大人の関与が最小限になっている場合である。別の片方は、大人が方向性を決め、大人が指示を与えていくような活動で、組織化されたスポーツ活動での練習がそれにあたる。2つめの軸は個人的価値に関わるもので、外的価値と内的価値の軸である。外的価値はスキルやパフォーマンスを向上させることを目的とした活動のことで、内的価値はそもそも楽しいからという理由で実施するような場合のことをいう。これらを組み合わせることで、上述のユーススポーツのプロトタイプ活動をマトリックス上に表すことが可能で、学習文脈の違いがはっきりと見えてくる。



 

 いかがでしたでしょうか。都会に住んでいると、創造的学習がなかなか難しいなと感じます。公園で子どもたちが遊べなくなっているということもよく聞きますし。今日の記事の中にもGame Senseという言葉が出てきました。以前、このサイトでもGame Senseの考え方について説明しましたが、このマトリックスのなかでは第一象限に位置するものという解説もありました。4象限+1(大会)を網羅するようなスポーツ活動経験を子どもたちにという考え方も、コーチが何を教えたいかではなく、子どもたちがどのような運動経験をしていくのかという、アスリートセンタード、学習者中心の考え方にもつながるものだと感じます。

 今回は、この記事に対しての感想を、我々のスタッフである富永さんにも一言書いてもらえるようにお願いしましたので、そちらもどうぞ。(伊藤雅充)


 

 日本体育大学コーチングエクセレンスセンター助教の富永梨紗子です。私は普段、ハイパフィーマンス領域のコーチやアスリートと関わることが多いのですが、改めてユーススポーツについて考えるよい機会となりました。

 この記事を読んでまず思ったことは、今、身近なところにいる上司や同僚や友人たちの子どもにとって私だったらどんな環境を支援できるだろうか?ということでした。

 特別なことはできませんが、「ああした方がいいんじゃないか?」とか「こうした方がいいんじゃないか?」という大人目線の考えを押し付けずに、純粋に子どもたちが遊ぶことを楽しめるように、見守ったり問いかけをしたりその場に適応した振る舞いが出来たら良いなと思いました。

 私の幼いころからの友人は、4歳(男の子)の子どもがいるのですが、今日もせっせとヒーローごっこを楽しんでいると報告がありました。歯ブラシを片手に友達と駆け回っているそうです。友人は「歯ブラシを武器にヒーローごっこなんて何が楽しいんだろう?」と言っていましたが、この記事を読んだ後だったこともあり、「こんな情報があるんだよ!」と思わずこの記事の内容を伝えずにはいられませんでした。

 よく、子育てにコーチングが活用できると聞きますが、人の成長を支援するという意味では非常に参考になるものが多いと思います。そのため、このような情報発信を行うことで、子育てに奮闘されている方や、ユーススポーツの指導に携わっているコーチたちの役に立てたら良いなと思います。さらに、子どもたちが安心して遊んだり・スポーツ活動ができる環境の改善に少しでも貢献できたら良いなと思いました。

(富永梨紗子)■

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