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自己決定理論と対人関係スタイル

 昨日のブログでは修士課程2年生の玉田さんがコーチの「対他者の知識」について記事を書いてくれました。コーチがどのような行動をとるかは、アスリートの発達の様々な側面に影響を与えます。心から疑いもせず良かれと思っていることが、アスリートに負の影響を与えてしまっているとしたらとても悲しいことです。今日紹介するのは、まさにアスリートに負の影響を与えるコーチ行動についての論文です。


コーチングにおける制御的対人関係スタイル:心理測定スケールの開発と初期検証

Bartholomew, k. J., Ntoumanis, N., & Thogersen-Ntoumani, C. (2010) The controlling interpersonal style in a coaching context: development and initial validation of a psychometric scale. J Sport Exerc Psychol, 32(2), 193-216


 この論文は、最終的に制御的コーチ行動尺度(Controling Coach Behaviors Scale:CCBS)の開発をしようとするものでしたが、その「はじめに」のところで書かれていた内容が、この場で紹介するのに適していると思い、尺度開発に関する部分だけを削除して翻訳を紹介することにしました。今日と明日に分けてお届けしたいと思います。


 



 スポーツの文脈では、コーチの行動や対人関係のスタイルはアスリートのパフォーマンスに影響を与えるだけでなく、アスリートがスポーツ参加によってどのような心理的な経験を得るかに深く関わっている (Vallerand & Losier, 1999)。コーチング文脈で行われた研究において、スポーツ用リーダーシップスケール(Leadership for Sport Scale:LSS; Chelladurai & Saleh, 1980)やコーチ行動評価システム(Coach Behaviors Assessment System:CBAS; Smith, Smoll & Hunt, 1977)、スポーツコーチング行動スケール(Coaching Behavior Scale for Sport:CBS-S; Côté, Yardley, Hay, Sedgwick, & Baker, 1999)といった評価法を使って、様々なコーチング行動(例えば、独裁的/民主的な意志決定スタイル、個人的な信頼関係、社会的サポート、フィードバックといった)がモチベーションや楽しみ、満足度のような結果に与える影響を評価してきた(Chelladurai & Reimer, 1998の総説を参照)。この一連の研究は、ユーススポーツでみられるコーチの行動が子どもたちの心理的な経験に大きな影響を与えることを示してきた(Smoll & Smith, 2002)。しかし、Amorose & Horn(2000)はこれらの他にも調べるべき重要なコーチング行動があるかもしれないと示唆している。例えば、先行研究では、コーチの自律支援的傾向や制御的傾向がアスリートの動機に影響を与える可能性があることが示されている(Mageau & Vallerand, 2003参照)。自律支援的コーチ行動に焦点をあてた研究はいくつかあるものの、コーチが制御的行動を用いることの実証的証拠は希である。

自己決定理論と対人関係スタイル

 自己決定理論から考えれば、コーチの行動は2つの対人関係スタイル(自律性支援的と制御的)との関わりで捉えることができる。スポーツや体育をはじめ、人生に関わる他の様々な領域の研究において、コーチの自律性支援行動に焦点があてられてきた(Mageau & Vallerand, 2003参照)。自律性支援スタイルでは自ら始めた目標に向かう試みを積極的に支援したり、アスリートが意思や選択、自己承認の感覚を経験できるような状況を作り出す。

 スポーツや体育領域で自己決定理論を基盤として行われた研究では、自律性支援的なコーチ行動(例えば、理論的根拠を提示したり、感覚を認めたりする)をとることで、アスリートのより自己決定した動機につながることが示されてきた(Pelletier, Fortier, Vallerand, & Brière, 2001)。自己決定とは完全なる意思選択の感覚を持って行動することを意味している(Ryan & Deci, 2002)。アスリートがとる行動は、行動そのものが面白かったり(すなわち、内発的動機)、個人的に重要であったりする(すなわち、同一化調整)ため、完全にアスリートが自ら承認し、関わっていくことになる。より自己決定されたモチベーションを有するアスリートはポジティブな結果(例えば、長続き、努力、パフォーマンス、活力、自尊心、幸福が高められる)を得る傾向にあることが一貫して報告されている(Ryan & Deci, 2002)。

 自己決定理論では自律性支援的な対人関係スタイルがアスリートの自己決定された動機を高めると言われている。それは、アスリートの心理的ニーズを満たすことによるとされている。この理論(Deci & Ryan, 2000)では3つの生得的な心理的ニーズを設定している。自律感(個人が自らの行動を初発するにあたり、意思選択や責任をどの程度感じているのか)、有能感(個人が自身の目標や望んだ結果を達成できるという感覚をどの程度得ているのか)、関係性(個人がその社会的な文脈の中で周りの人とどの程度関わっていると感じているのか)の3つがそれらである。スポーツ領域で行われた多くの研究は、認知された自律性支援的なコーチング行動とアスリートの自己決定された動機の関係におけるニーズ充足の媒介効果を支持している(例:Amorose & Anderson- Butcher, 2007)。

 逆に、制御的な対人関係スタイルをとっているコーチは威圧的、高圧的、独裁主義的な方法を使って、アスリートに対して、ある特定の前もって考えられた思考法と行動法を押しつける。その結果、アスリートはコーチからの外的な圧力によって動かされていると感じる。それゆえ、制御的なコーチング行動はアスリートが行動を起こす原因を内発的なものから外発的なものへ変化させてしまう。制御を失うことの結果として、アスリートの心理的ニーズと自己決定の感覚が失われ、制御された動機につながってしまう(Blanchard, Amiot, Perreault, Vallerand, & Provencher, 2009; Deci & Ryan, 1985)。後者は威圧的な要求と報酬の随伴性(すなわち、外的調整)に基づく動機、もしくは罪悪感や義務感(すなわち取り込み的調整)に基づく動機に反映されている。そのような圧力によって、自らの意思とは関係なく、アスリートは要求された行動をとりあえず遂行する。

 驚くことに、コーチが用いる制御的な動機づけ戦略について自己決定理論に基づいた研究はほとんど見られない。特記すべき例外はPelletierら(2001)による、コーチの自律性支援的な対人関係行動と制御的な対人関係行動に対するスイマーの認知を評価したものだろう。コーチの威圧的な(制御的な)行動を調べるために、彼らはセラピーのクライアントの動機を調べるスケール(Pelletier, Tuson, & Haddad, 1997)で用いられていた4項目スケールを採用した。その中には「私のコーチは、コーチの望むことを私が実行するように圧力をかける」といった項目がある。自己決定理論に基づけば、制御的なコーチ行動は非自己決定の度合いを高くする(特に外的調整)。Pelletierら(2001)はまた、コーチの自律性支援の提供と制御に対するスイマーの認知の潜在因子の間にやや弱い負の相関(r=-0.36)を認めた。この知見は制御的な行動が自律性支援行動の正反対のものではないことの証拠を提示してくれた。同様の考察が子育てに関する研究(Silk, Morris, Kanaya, & Steinberg, 2003)や体育教師の対人関係の振る舞いを調査した研究(Tessier, Sarrazin, & Ntoumanis, 2008)でも行われている。

 コーチは制御的な行動と自律性支援行動の両方を同時に、そして違った程度で行うことができることを示している。例えば、コーチは規律的戦略として条件つきの関心を使いつつ、求める行為の明確な説明を提供することもできる。これは自律性支援行動の欠如(すなわち、自律性支援の程度を評価する尺度の得点が低い場合など)が、制御的コーチ行動がとられていることを直ちに指すわけではないことを意味している。例えば、自律性支援がみられないことが直接的な制御スタイルをとっていることを意味するのではなく、単にもっと中立的なスタイルをとっているだけなのかもしれない。このような観察をふまえると、制御的な対人関係行動がどのようにアスリートの動機や幸福に影響を与えるのかを正確に理解し、そして若いアスリートの心理的な経験に負の影響を与える戦略を同定することの必要性が高いことが分かる。

 

 このウェブサイトの名前でもある「アスリートセンタードコーチング」の最も重要な理論的背景の一つが自己決定理論で、それに関連する、ポジティブサイドの話とダークサイドの話が両方出てきました。ポジティブサイドの話では自律性支援行動、ダークサイドとして制御的な動機づけ戦略が紹介され、それぞれの概要が示されていました。自律性支援行動と制御行動についてはまた別の機会に紹介したいと思いますが、自分がとっている行動はどちらに近いのか、振り返ってみるのも面白いと思います。

 明日は後半部分「自己決定理論と制御的な動機づけ戦略」について紹介します。こちらは具体的なネガティブな結果を導いてしまう可能性が高い行動が列記されています。楽しみにしていてください。

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