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HOPEとは何か


ここ2年間、私はスポーツ庁委託事業「ポストスポーツ・フォー・トゥモロー推進事業(国際情勢に応じた海外アスリート等支援事業)」の運営責任者として携わってきました。日本体育大学の我々のチームではこの事業を、SFT-NSSU HOPE Project(High-performance support for Overseas Para-athletes under Emergency Project)と名付けて展開してきました。このHOPEという愛称、最初はそれとなく、よい響きだなというイメージで付けたのですが、事業を進めるにつれて、どんどんと深みや拡がりを持った言葉になっていきました。そもそも「HOPE」とは何なのでしょうか。この事業で何が起こっていたのか、どのようなインパクトが現れているのかを、この場で紹介をしていきたいと思います。


HOPEプロジェクトは、紛争や災害などによって、自国で十分なトレーニング環境を確保することが難しい海外パラアスリート等を日本に招へいし、トレーニング機会や関連支援を提供する事業です。ここまで聞けば、比較的シンプルな構造に見えるかもしれません。しかし、実際には、かなり複雑で困難な事業でした。そもそも、日本に来るためのビザの取得が簡単ではないのです。


対象国の選定一つをとっても、多くの情報を集めて議論を重ねる必要がありました。世界中には支援が必要とされる国がたくさんあります。本当に支援が必要な国はどこなのか、様々な要因を複合的に判断しながら、対象を決めていく必要がありました。


さらに、招へいが決まった後も、調整は続きます。各国NPCとの連携、渡航手配、受入体制の構築、トレーニング環境の整備、交流プログラムの設計、そして帰国後のフォローアップなど、多くのことを考えていきます。どのプロセスにも「標準化された解」があるわけではなく、その都度、状況に応じた判断が求められました。HOPEプロジェクトは、あらかじめ決められた枠組みを運用する事業ではなく、状況に応じて設計し続ける事業だと言えます。


紛争下にある地域では、そもそも安全に移動することが容易ではありません。施設が破壊されている場合もあれば、維持管理ができていない場合もあります。経済的な制約から、継続的なトレーニング環境を確保できないケースもあるでしょう。そうした状況の中で、アスリートは「競技を続ける」ことを諦めざるを得ない場合もあるでしょう。全ての困った人にリーチすることはできません。だからといって何もしないのは違うと思います。少しでもいい。何かができれば・・・。私たちのチームは「何ができるのか」を問い続けながらこの事業を運営しています。


この2年間で、5回のキャンプを展開しました。2024年度はパレスチナを対象とした卓球と陸上競技キャンプ、レバノンとイエメンを対象にした陸上競技キャンプ、アフガニスタンを対象にしたテコンドーキャンプを実施しました。2025年度は、パレスチナ、イエメン、ザンビア、マラウイを対象とした陸上競技キャンプ、レバノン、パレスチナ、ネパールを対象とした水泳競技キャンプを実施しました。これらをデザインする際に、単にトレーニング環境を提供するだけでなく、付加的な学習機会を設けることに心を砕きました。


これは、私たちのチームで過去に運営した別事業(NEPP)での経験からきた考え方でした。NEPPで私たちが支援対象とした国は、基本的に開発途上国でした。かれらが東京パラリンピックに参加するための支援をしていましたが、そのような国のアスリートが大会に出場して活躍するためには、アスリートだけをみていては十分ではありませんでした。コーチがいない、包括的なトレーニングのアイデアがない、トレーニングプログラムの改善が容易ではない、といった課題がたくさんあるのです。また、短期間日本に滞在し、良い環境で練習を行ったとしても、その経験が帰国後にどのように活かされるのかを考えなければ、支援としては不十分です。このことは、HOPEプロジェクトの設計全体に影響を与えました。その結果、各キャンプでは、トレーニングだけでなく、交流、心理的サポート、コンディショニング、振り返り、アクションプランの作成といった要素を組み込むことになりました。日本での短期の経験を、一過性の出来事として終わらせない。その後の競技生活につながる「プロセス」として設計する必要がありました。HOPEプロジェクトが作ろうとしていたのは、一過性の、単なる機会提供ではなく、その後も続く、変化のきっかけをつくることでした。


この事業では、支援対象を個人ではなく、各国のパラリンピック委員会(NPC)に設定しました。先に述べたように、日本での短期の経験だけで終わらせないようにするためには、アスリートだけを支援するのではなく、そのアスリートが帰国した後も成長し続けられる仕組みが必要となります。NPCは、その国の障がい者スポーツ全体を俯瞰する立場にあり、包括的な視点でアスリートへの支援を考えることができる(少なくともそうあるべき)と考えました。NPCをカウンターパートとすることで、単一競技・単一のアスリートにとどまらない、より包括的な支援が可能になることを期待したのです。


そして実際にプロジェクトを進める中で見えてきたのは、体系的な課題があるということでした。アスリートがいて、コーチがいて、支えるスタッフがいて、組織があります。さらにその背後には、社会的・政治的な条件も存在しています。この事業を始める前から、このような存在が意識できていたかというと、そうではありませんでした。しかし、実際に事業を運営していく中で、これらの様々な課題が徐々に浮かび上がり、私たちを悩ませることもありました。運営側にも学びの連続です。支援する側とされる側という単純な関係ではなく、私たち自身も多くのことを学び続けているのだと感じています。


「HOPE」とは何なのでしょうか。私たちの事業活動が、関わってくれる誰かに小さな機会をもたらし、それがその後の変化につながり、誰かの未来を少しでも明るくするかもしれない。そう思えること自体が、私たちにとっての「HOPE」なのかもしれません。


この事業の詳細については、成果報告書としてまとめています。ただ、その報告書の内容は、ほとんど誰の目にもとまることはないのではないかと思います。私たちがこの事業を展開する中で感じたことの、ほんの少しのことを、このブログでも綴って共有していきたいと思っています。私たちの学びの記録とともに、もしかしたら誰かの心に引っかかることがあれば嬉しいと思って。

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