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「実力が出せなかった」—それが実力

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試合や大会のあとによく耳にします。


「今日は実力が出せませんでした。」


でも、私はこう思うのです。


「実力を出せなかった」——それが実力です。


厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、運動学習の側面から見れば自然なことです。おそらくは「普段のトレーニングではもっと上手くできているのに」という思いから、そのように言っているのだろうと予想します。このような場合、一度、実力とは何か?を考えてみる必要があると思います。そして、普段のトレーニングの仕方を見直してみる必要があると思います。


指導者もアスリートも、トレーニングでできれば試合でもできるはずと思っているかもしれません。ただ、それは試合とトレーニングがしっかりとつながっている場合にのみ当てはまることです。言い換えれば、オーセンティック(正統性、本物さ)なトレーニングができているのか否か。ここがズレていれば、試合の場面で、トレーニングでのパフォーマンスが発揮できなくても当然です。


また、パフォーマンスは変動するもの、あるいは平均回帰するという性質を理解できているかどうかも重要な観点です。よい時もあればうまくいかない時もある。その振れ幅を理解した上で、発言をしていく必要があるでしょう。パフォーマンス変動の頂点をアスリートの実力と思っていることが、実力が発揮できなかっという考えを引き起こしてしまう原因かもしれません。変動するパフォーマンスの幅全体を実力と考えなくてはなりません。


あるいは、相手の存在を忘れていることが原因かもしれません。対戦競技であれば、相手との相互作用の中でパフォーマンスが発揮されることになります。相手がうまくパフォーマンスを出させないようにしたのかもしれません。ここでも、普段のトレーニングがオーセンティックになっているのかを考えてみる必要があるでしょう。


オーセンティックなトレーニングを行うためには、コーチのRLD(Representative Learning Design)スキルが必要となります。RLDは日本語ではなかなか表現が難しい用語ですが、試合でのリアルな状況を反映した学習設計とでも訳しましょうか。トレーニングで得たテクニックが、試合でのリアルな状況を考慮した環境の中で獲得されていなければ、トレーニングで発揮できるパフォーマンスが試合で出なくても何の不思議もありません。むしろ、当然のことです。運動の学習には特異性があり、スキルが学習された環境も共に学ばれています。トレーニング環境でトレーニングされたスキルが試合場面へと「転移」されるためには、トレーニング環境がオーセンティックである必要があるのです。


このように考えると、「実力が発揮できないのが実力」という表現もしっくりくるのではないでしょうか。もし、コーチが「実力を発揮することができなかった」と言っているとしたら、それは「私はリアルな状況を考慮したトレーニングを組むことができていません」と自ら言っているように見えます。



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