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NCDAがブータンオリンピック委員会とMoU締結

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 2025年10月29日、ブータンの首都ティンプーで、ブータンオリンピック委員会(BOC)と日本体育大学コーチデベロッパーアカデミー(NCDA)が、コーチ育成と教育的連携に関する覚書(MoU)を締結しました。この協定は、スポーツコーチングの専門知識の相互交換、共同プログラムの促進、そしてコーチング文化の創造を目的としています。


パートナーシップの始まり

 署名式では、BOCのソナム・カルマ・ツェリン事務総長が「このMoUは共通の価値観と目標に基づく新たなパートナーシップの始まりです」と述べました。また、「コーチは選手を強くするだけでなく、人を導く存在です。だからこそ、コーチを支える仕組みを整えることが重要です」と語っています。BOCは、国内のスポーツ発展を支える中核機関として、今後のコーチ育成や教育的交流を重視していく姿勢を明確に示しました。

 ブータン側は、政治的安定と地域的中立性を活かし、スポーツを地域協働や平和促進の手段として発展させていく構想を語っていました。このようなビジョンは、スポーツを社会的・教育的な活動として位置づけるBOCの方針と、NCDAが掲げる「人の成長を支えるコーチング文化の創造」という理念とが重なるものです。


コーチを支える仕組みづくり

 ブータンでは、政府の限られた予算の中で、スポーツが優先順位の高い政策分野として位置づけられることは容易ではないという現状もあるようです。こうした中で、BOCは「アスリートを支えるために、まずコーチを支える仕組みを整える必要がある」との考えを示しています。

 その取り組みの一つとして、BOCは30日間のスポーツ科学基礎コースを実施しています。関係者によると、このコースでは異なる競技のコーチたちが交流し、協力関係が生まれたといいます。「種目を越えて協力し合う学びの雰囲気が生まれた」との報告もありました。こうした現象は、コーチ同士が互いの経験を共有しながら学ぶ「学びの共同体(Community of Practice)」の萌芽といえるかもしれません。


南アジアの連携拠点としての展望

 今回の協定は、ブータン国内にとどまらず、南アジア地域でのスポーツコーチ育成に向けた協力の枠組みとしても期待されています。BOCの会長はアジア・オリンピック評議会(OCA)の南アジア代表を務めており、地域のスポーツ連携を推進する立場にあります。ソナム事務総長は「ブータンは中立的な立場を保ちながら、地域の国々が協働できる場をつくることができる」と述べていました。

 BOCは、南アジア諸国が互いに人材と知見を交換できる仕組みを整えることを目指しており、その中でブータンが調整役を担う可能性についても議論がなされました。この構想は、政治的・宗教的に複雑な地域において、スポーツを「共通の言語」として活用する試みの一つと捉えられます。NCDAが長年取り組んできた「コーチングを文化として育てる」という考え方と方向性を同じくする点でも注目されます。


文化の共創としての協働

 私たちは、この協働を「文化の共創」として捉えています。それは、制度や技術を日本から移転することではなく、ブータンの文脈や価値観を尊重しながら、新しい学びの形をともに築くことを意味します。スポーツを通して人が成長し、学び続ける文化を社会の中に育てていく——そのプロセスを共に歩むことこそ、このパートナーシップの本質です。

 BOCの取り組みとNCDAの理念は、互いに影響を与え合いながら発展していく可能性を持っています。ブータンが掲げる「スポーツを通して社会を育てる」という方向性と、私たちが大切にしてきた「人の学びを支える文化をつくる」という理念が結びつくことで、両者の協働は、単なる国際連携ではなく、教育的・文化的な価値創造の場へと発展していくと考えています。


おわりに

 ソナム事務総長が繰り返し口にしていた「Big Picture(大きな構想)」という言葉には、スポーツを通して社会全体をより良くしていくという意思が込められていると感じます。NCDAは、この理念を共有しながら、ブータンのコーチ育成やスポーツ教育の現場と協働し、学び合う文化を支える活動を続けていきます。

 今回のMoUは、ゴールではなくスタートです。スポーツを通じて人が育ち、社会が育つ——その道をともに探求していくことこそが、ブータンとNCDAが出会った意味だと考えています。

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