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チャンピオンシップ文化を構築する4つの鍵

International Sport Coaching Journal, 2016, 3, 170-177

チャンピオンシップ文化を構築する4つの鍵 Four Keys to Building a Championship Culture

Chantal N. Vallée (University of Windsor) & Gordon A. Bloom (McGill University)


Winning a national championship is a rare feat; winning five consecutive championships is extraordinary. One such example has recently occurred with the University of Windsor women’s basketball team which competes in the Canadian interuniversity sports league. The team’s head coach, Chantal Vallée, has a combined regular season and playoff winning percentage greater than 80%, including winning five consecutive Canadian national championships. Even more astounding is that before her appointment the school had only four winning seasons in their 50-year history, and had never hosted a playoff game. The purpose of this paper is to explain the remarkable turnaround of this program. This article will provide both the “what” (Enacting The Vision; Athlete Empowerment; Teaching Life Skills; Lifelong Learning and Personal Reflection) and the “how” (blueprint) of the transformation of the University of Windsor women’s basketball into a perennial national contender.

Keywords: coaching leadership, coaching knowledge, coaching behaviours, coaching success

この論文は ISCJ にベストプラクティスとして掲載されていたものである。マギル大学大学院の Dr. Gordon Bloom のもとで修士論文を執筆した筆頭著者 Chantal Valléeが、自分の書いた修士論文をベースに大学バスケットボールチームを指導し、素晴らしいチームを作り 上げた、その背景について記述しており、実践力向上を願う我々にとっても参考になる記事だと思われる。ちなみに Gordonは2015年にNCDA の講師として日体大に来てくれている。

Chantal は優れたコーチになりたいという思いを抱いてマギル大学のGordonのチームに加わった。修了後、カレッジのコーチになり、成績を出し始め、それをみた現在所属している大学からヘッドコーチとしてのポジションをオファーされた。このWindsor大は、それまでほとんど勝ったことがないチームだったが、彼女が就任してから2年間は成績が振るわなかったものの、その後目覚ましい活躍をし始めた。彼女は自身の修士論文から得られた知識やリーダーシップのあり方を活用して良いチームを作ったのだった。この論文では、彼女が取り組んだ4つのポイントについて論じている。


1つめの鍵:ビジョンを掲げる

優れたコーチは長期的なゴールや方向性を明確に示し、アスリートたちと共有している。高い目標を掲げるのも優れたコーチたちに共通してみられたことだった。 Chantalも、5年で全国優勝するという目標を高らかに宣言し、実際には 6 年でそれを成し遂げた。新しいルールを決め、マインドセットを変化させるよう、初日から徹底してコーチングを行った。そして、自分の情熱をプレーヤーに伝え続けた。優勝するというビジョンをプレーヤーにも親にも、他のコーチにも言い続けた。もちろん、最初は笑われたり反対されることも多かった。

「ウィンザーから全国へ:2005-2010ビジネスプラン」を作成し、それを実行していった。ビジョンは「何」をするのか、このプランは「どう」やっていくのかを示すものとなった。最初のプランをたてたとき、このチームはカンファレンスの最下位で、全国ランキングは 43 チーム中 41 位だった。地理的条件もあり、大学は学問的な評判も良くなかった。だからこそ、過去や地域性にとらわれることなく、未来志向のビジョンを持つ必要があっ た。ビジョンを持つことは重要だが、それを実行に移すことが大切だ。ビジョンをリクルートの際にも使った。勝ちたいと言うだけでなく、どうやって勝とうとしているのか、印刷物を見せて説明した。どのような場合にも、ビジョンを実現させようと努力し、最高のアスリートや学生にウィンザーを選んでもらえるようにした。


2つめの鍵:アスリートに権限を持たせる

Chantal は自らの研究で、優れたコーチはコート上で優れたパフォーマンスを発揮するアスリートを育てることはもちろんのこと、大学というプラットフォームを活用してコート外でも優れた能力を発揮する、自信にあふれた人を育成していたことを見出した。アスリートが自らの目標を達成するのを支援するひとつの方法が権限の委譲である。これまでに自分が経験してきたものとは全く異なるものだった。優れたリーダーは変革型(Transformational)であったことが自分の研究でも明らかとなっていた。変革型リーダーは導かれる人の幸福を心から願い、道程において共に変わっていこうとする。Chantal はコーチが公的にも私的にもアスリートとともに刺激しあって成長できると思っていた。

Chantal は意図的に変革型リーダーになった。プレーヤーが Chantal なしでも成功できると思った時には。自分たちで考えて行動ができるようになるために、アスリートとコミュニケーションをとり、考える力を養っていった。シーズン終わりになると、プレーヤーが自分たちで試合中にゲームプランを考え調整するようになり、 Chantal には報告するようになった。シーズン初めの、プレイごとに指示を待っていた態度とは全く異なるものだった。意思決定の仕方についても教えたが、1年生や 2年生には意思決定プロセスに参加させなかった。学年が進行するにつれ、その能力は上がっていった。Chantal のチームは、みんなで作るチームになった。 アスリートの Chantal に対する尊敬の念がなくなったわけではなく、良い関係を築き、コーチとしての権威とレスペクトを維持したまま、権限を委譲し、制御権を手放すことを学び、より良いコーチに自分を変革できたと考えている。


3つめの鍵:ライフスキルを教える

優れたコーチたちは、アスリートに権限を持たせることと 、ライフスキル発達を組み合わせていた。Chantalは 、インテグリティを持ってどう勝つかを学ぶことを重視していた。彼女は勝つことに価値を見出していたが、自分の価値観やチーム文化をないがしろにしてまで勝とうとはしない。勝つことを通じて人間的な成長やライフスキルを教えようとしている。チームとして勝つ文化を発展させることが、ひとつの試合を勝つことよりも重要であ り、誰一人としてチーム全体よりも大きなものはいないという意識でいる。その他に大切にしているのは、ハードワーク、説明責任、弾力性(resilience)、気概、チームワーク、役割受諾、権威に対する敬意である。目の前の試合の勝ち負けを考えるよりも、これらを優先することが、アスリートの全人的発達を促すことにつながる。


4つめの鍵:生涯学習と省察

優れたコーチは卓越を達成するために飽くなき挑戦を続けており、もっと具体的にいえば、知識を求め続けている。たくさん読み、たくさんの人と関わり、自分の知識を増やしている。Chantal もプレーヤーの親の意見を取り入れたり、クリニックに参加したり、リーダーシップ、マーケティング、ブランディング、販売促進といった領域まで学びの 範囲を広げていっている。そして、リーダーシップについて学べば学ぶほど、より良いコーチになっていることに気づいた。

Chantal が採用しているリーダーシップスタイルは、場面によって変化する。歳を重ねるごとに、成熟し、明晰に、自信を持ってリーダーシップを発揮するようになった。機嫌が悪くなることは少なくなり、抑えつけることも少なくなり、より権限を委譲するようになり、より制御しなくなった。このためには、多くの内観や批判 の受け入れが必要で、自己を変革していかなくてはなら ない。自己変革を起こそうとするのは、今までで一番困難な経験だった。しかし、この過程をとることがより優れたリーダー、そしてコーチになっていくために重要だと信じている。プログラムを良くしようとずっと考えてきたが、振り返ってみると、もっとも必要なのは自己変革であったと気づいた。自分に知識がつき、チームが強くなっていくにつれ、 自分の知識や経験不足がチームの成功を妨げていると感じた。そこでメンターをお願いし、自分のコーチをしてもらっている。


報告者(伊藤)コメント

私たちの大学院で目指しているコーチングとの共通点が多く見られる論文でした。私たちも科学的知識をしっかりと学び、自分自身を変革していくための実際の行動をしていかなくてはならないと感じます。自分もシステムの一員であるという認識を持って、取り組んでいかなくてはなりません。自分が変われば、自分の周りも変わります。コントロールできるのは自分自身の考え、言動であり、他者には影響を与えることしかできません。相手をコントロールしようとするよりも、どのような影響を与えるかに興味をもち、そのために自分をどう変えていくかを考えていくことが重要だと思います。■


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