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ハイパフォーマンスコーチングの高度なワザを磨く(3)

皆さん、ご無沙汰しております。怒濤の2月が過ぎ、少しまたブログにかける時間を確保できそうになってきましたので、更新を再開したいと思います。ブログをお休みしていた間にもたくさんの学びを得ることができましたので、そのあたりもどこかで記事にできれば。


さて、今回はハイパフォーマンスコーチがどのようにしてスキルアップをしていくのかについてまとめられたブックチャプターの‘大学におけるコーチ教育プログラムについて’の部分を紹介します。これまでのことを思い出さねばという方は、以前の記事をご参照ください。


 

大学でのコーチ教育プログラム:将来に向けたビジョン

コーチングの仕事の中での学びと仕事を通しての学びに加え、フォーマルな第3次学習(訳者注:第1次が小学校primary school、第2次が高等学校secondary schoolで第3次は大学や専門学校等のことをいう)でのコーチ育成が取り上げられ、そこで、どのようにコーチが能力を向上させるのかについての議論が行われてきた(Cassidy 2008; Demers et al. 2006; Mallett & Dickens 2009; Rynne et al. 2006; Mallett et al. 2010)。ハイパフォーマンスコーチのほとんどは最低でも学士号を有しているものの(Trudel & Gilbert 2006)、コーチングに特化した大学のプログラムや資格はあまり一般的ではない。しかし、大学教育はコーチの学びの場として勢いを増してきており、特にイギリスでは数も増えてきている(主に学部で)(Cushion et al. 2010; Jones 2006; Lyle 2002)。キャリア進行を促進する方法として第3次資格が発展してきているが、これらのプログラムがコーチ育成に貢献するよううまくデザインされている必要がある。オーストラリアのハイパフォーマンスコーチを対象に行われた研究(Mallett et al 2010; Rynne 2008)では、コーチが高次教育コースに参加することで、専門的な支援をする者(パラプロフェッショナル)と日常的な相互作用が可能で、(より自信と有能感をもって)多くのことを活用するようになったり、大学での学びに関わることで批判的思考スキルを向上させたりすることが可能であると示されている。しかし、これらやその他の結果は質の高いプログラムデザインを支える教授法があったからこそ得られたと考えられる。大学におけるハイパフォーマンススポーツコーチングのコースは、実際のコーチング現場で活用できる実践的なタスク、協働機会の提供、学習者中心のアプローチ、意味ある総合的な評価を行っていく必要がある。


大学プログラムの増加は、スポーツコーチングがひとつの職業的分類として認められてきたことに対応するものだと考えられる。Jones(2006)は、スポーツコーチングに関する高次教育が提供されるようになってきたのは、コーチングが知的な努力であると認知され、受け入れられるようになってきた結果であろうと述べている。ハイパフォーマンスコーチングの質は、コーチの実践に役立つ広範な学問領域(Abraham & Collins 1998)からの知識に依存している。大学は優れたコンテンツ知識と批判的かつ独立的思考スキル(他にもたくさん特性があるが)を有する卒業生を輩出する責任を負っていると考えられている。これらのスキルや能力は優れたコーチングに必要であると言われており、コーチが非常に競争の激しい(Rynne et al. 2010)、複雑な、予測不可能で不確かなエリートスポーツの文脈(Cushion 2007; Lyle 2007)に応えて、「マインドの質」を向上させる(Jones & Turner 2006: 185)のに役立つ。


大学でのコーチ教育プログラムにおける重要な能力の発達(例えば省察)を調べた研究はほとんどなく、残念ながらこれらのプログラムの効果を支持する証拠はほとんどない(例:Knowles et al. 2001, 2006; Nash 2003)。その上、これらの介入がコーチング実践に与える影響を調べようとはしてこなかった(Cushion et al. 2010)。いくつかの研究で、課題を認識し解いていくコーチングの知識を生成するのに省察的実践が重要であることが示されてきた(例:Cushion et al. 2003; Gilbert & Trudel 2001)。すなわち、省察的実践が、コーチングの質を高めようとする意志とともに、知識の生成と学びに密接に関係している。いくつかの研究で、大学のプログラムが、コーチング実践に影響を与えるられるかという視点で、省察力の発達を促すことができるかについて調べている(Knowles et al. 2001, 2006; Nash 2003)。学部のコーチングの学生を調べたこれらの研究は、省察スキルを発達させるのは挑戦的であり(Knowles et al. 2001)、省察のレベルは表面的であった(技術的省察)(Knowles et al. 2006)ことを示している。学部のコーチングの学生を対象とした別の2つの研究は問題解決型(そしてコンピテンシー基盤型)学習アプローチ(Jones & Turner 2006; Demers et al. 2006)を用い、学生を「学習者中心」のアプローチに従事させ、コーチングでみられる出来ごとの問題解決を協働で行っていくことをさせている。問題解決型学習(PBL)は学習の社会構成主義理論に基づいており、伝統的な講義中心の学習アプローチよりも「真正」であるされている。どちらの調査も主たる目的は省察的実践者を育てることであり、学習に対する問題解決型、もしくはコンピテンシー基盤型アプローチが有効であるとしたが、同時にこのアプローチは挑戦的でたくさんの準備を要すると考えられた。加えて、それがコーチング実践に与える影響については何の証拠もない。まとめると、これらの研究から、省察の実践にはそれなりの向上がみられたが、コーチング実践に与える影響についてはこれまで何の証拠も得られていない。

Trudel & Gilbert(2006)はコーチの学びをSfard (1998)の2つの比喩をつかって概念化した。それは習得と参加である。大切なことに、Sfardの学習に対する見方と同じく、彼らはコーチの育成に両方の比喩を考慮することに賛成している。特に、彼らは大規模なコーチ教育プログラムを現在の習得指向から参加をより強調したものへとシフトさせていくことを奨励している。学習のプロセスへの関わりを増やしていくというこの動きは先に述べた学部生でのPBLと省察の研究と一致している。この研究の著者ら(例えばKnowles et al. 2006)は今後省察を促進する方法を提案したが、Sfard(1998)のコーチの学びを促進する参加の比喩を取り入れるアプローチを発展させるのに多くのことをやらなくてはならない。間違いなく、この一連の問いかけは学部生を対象に行われたものであり、一般には比較的若い大人で、今後コーチとしての職を得るために学んでいる者達である。さらに、おそらくほとんどの教育がコミュニティーコーチを対象にしている。若い大人が職業の学びを問題解決型アプローチで行っていくことは難しいと思われる。なぜなら彼らはそのフィールドでの経験が比較的少ないので、仕事についての理解が限られている。学部のスポーツコーチングプログラムは、すでに十分な職業経験を有するコーチのためにデザインされたプログラム(すなわち、継続的専門能力向上[CPD])に比べて、意欲的なコーチの将来に向けての準備をするには不利な点がある。


学習者中心のアプローチは、既にコーチングに関わり、省察を行うことができる経験を有している学生にとっては最も有効だと思われる。現在の実践を振り返ることで(学部学生がプラクティカムを行っている場合のように、メンターコーチの指導のもとに行っていることではなく)、学生コーチは大学で学んでいることと絡めて現在の仕事の省察を行うことができる。実践しているコーチにCPDの形を提供している大学のスポーツコーチングプログラムは、大学のコーチ教育者に習得と参加の両方の比喩を統合させた教授法を取り入れることを可能にする。


この習得と参加の両方の比喩を統合したコーチ育成の例がクイーンズランド大学(UQ)の大学院スポーツコーチングプログラムである(Mallett & Dickens 2009)。とても競争が激しく、多相であり、予測不可能で混沌としたハイパフォーマンスコーチングの世界に向けて、コーチの準備を整えていくことは当然ながら複雑な挑戦である。UQの学生コーチの経験は、勉強したこととコーチングの仕事を意味ある形で結びつけるプログラムであることを示してきた。この育成の真正なアプローチは知識の習得とコーチング実践(応用)との合理的なリンクを促進する。これらのプログラムに関する研究は学術誌には掲載されていないものの、個別の報告の説明や、学生コーチや修了生たちが学習とコーチング実践とを統合した経験について提供してくれたフィードバックを提示することができる(Mallett & Dickens 2009 参照)。概して言えば、これまでに示された証拠は、これら成人学習者(コーチ)のコーチングに関する自己効力感が増し、批判的思考スキルが向上し、専門的な支援者 (例えばスポーツ医学)とのより機能的な関係を通して学び、何よりもコーチング実践力が向上したと認識していることを示している。もちろん、系統的で精力的な研究を行い、これらの主張を実証していかなくてはならない。とはいえ、現役(成人)コーチ向け大学コーチ教育のいくつかの証拠を示すことにする。


大学でのスポーツコーチングプログラムの主たる狙いが、自分のコーチング実践を批判的に評価できる革新的で「考える」コーチを育成することであれば、情報を実践とつなぎ合わせる学習機会を提供する能力が必要不可欠である。


このコースは、多くの「受け入れられている」コーチング実践の後ろにある原則を理解する能力を私に与えてくれることで、コーチング能力を上げてくれた。それよりも、私はなぜこれらがいつもうまくいく訳ではないのかが理解でき、別の選択肢を考え出すことができるようになった。(レベッカ、学生、2009)


このコースで扱った内容を本当に楽しんだ。そして、それは私に将来違ったやり方をするためのたくさんのアイデアを与えてくれた。(ビル、学生、2009)


 現在や将来のコーチングを批判的に振り返ることは重要であるが、大学でのコーチ教育の主たる狙いはコーチング実践を向上させることであるといえる。


私はこの機会を使って、今期このユニットを与えてくれたことと、私の挑戦的な役割を支援してくれたことにお礼を言いたい。元心理学者として、私はここで得た情報が様々なレベルでとても役に立つことを発見し、このユニットで学んだいくつかの戦略を実際に採用し、自分がコーチングするローイングの選手に使ってみた。今週試合があったのだが、世界選手権の金メダルを獲得することができた。ありがとう!(ジョー、学生、2009)


 私たちの論点は、大学でのスポーツコーチングプログラムがコーチの成長を手助けし、それがコーチング実践の改善に表れることだ。勉強とコーチング実践との統合についていくつかの肯定的なフィードバックがあるものの、様々な学術的な達成をするにはいくつかの障壁もある。(1)勉強の時間を優先する(勉強よりもコーチング実践を優先する者もいる)、(2)競争需要(コーチは忙しい生活を送っている)、(3)UQプログラムのようなオンラインのみよりも対面での学びを好む者もいる。“オーセンティックな”大学プログラムがコーチの成長を促進する可能性がある(Mallett & Dickens 2009)。勉強をコーチング実践と繋げることによって、コーチの実践の理解とそれに続く改善を促すことができる。系統的な研究がこれらのプログラム構造や教授法、そして重要なことにコーチング実践への影響を導くような基礎をなす。Sfard(1998)の2つの比喩を統合する様々な学びのモデルについての研究を行っていくことが、コーチの育成を理解するのに役立つばかりでなく、コーチ育成の責任を負う者をガイドすることにもつながるといえる。


 

今回の内容は、日本体育大学の学部、大学院にとって、とても重要な情報を含んだものでした。私たちの大学院にはナショナルチームクラスを指導する者や、トップアスリートで活動をしているものの、将来ハイパフォーマンスコーチとしての活動が期待される者もたくさん在籍しています。日本ではあまり行われてきていませんでしたが、海外ではコーチ教育プログラムの有効性についての検討が少なからず行われてきており、大学でのコーチ育成に対する疑問が多く語られてきています。それらの批判は大学や大学院での教育がダメだといっている訳ではなく、これまでのやり方よりももっと効果的なやり方があることを示しています。ここに気づき、日体大ではコーチ育成に対するアプローチ法を変えてきましたが、なかなか自分達のやり方を変えられない教員も少なくありません。大学や大学院で「教授センタード」な教育をしておいて、「学習者中心に!」というのはちょっと無理があります。という自分もまだまだ学習者中心のレベルは上げられると思いますし、もっと新しい方法を見つけ、身につけたいと思います。

どうすれば、よりオーセンティックな学びの場になるのか、しっかりと考えて改善を重ねていきたいと思います。(伊藤雅充)■

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