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ユーススポーツにおける保護者の責任と挑戦[論文紹介]

「ユーススポーツにおけるコーチと保護者の関係を強める:調和を増進させ悩みを最小化させる」(Smoll, Cumming, Smith, 2011)の論文紹介の第2部で、話題は「保護者の責任と挑戦」です。今回は、ユーススポーツを「こどものもの」として運営するときに重要な保護者に関する課題がまとめられていました。保護者の成長機会をコーチが提供していくヒントが得られることと思います。


過去の記事へのリンクはこちらからどうぞ。


 


保護者の責任と挑戦

 子どもがスポーツプログラムに加入したとき、保護者は自動的にいくつかの義務を負うことになる。最初、そのことに気づかず、期待されていることを後から知って驚く保護者もいる。それ以外の人は自分の責任に気づかず、自分の子どもがスポーツを通して成長する機会を見逃している場合もある。あるいは自分の子どもたちが成長することを妨げる行動をとってしまう人もいる。

 まず始めに保護者は、子どもがプログラムに参加しないという判断をする権利を有することを知っておかなくてはならない。保護者は子どもに対してスポーツに参加することを勧めるかもれないが、参加のプレッシャーをうけたり、強要されたり、お金や物で釣ったりすることは避けるべきである。“罠にかけられた”と感じているアスリートは、スポーツに参加することをあまり楽しいと感じておらず、内発的動機づけも低く、期待される様々な効果を思ったほど得られず、スポーツからドロップアウトする確率が高い。保護者の責任として、子どもの相談にのり、どのようなスポーツを選択するのか、どような競技レベルでプレーしたいのかなどについて考慮していく必要がある。

 最善の結論が参加しないことである場合もある。スポーツへの参加は望ましいと考えられるものの、全員に必要かと言われるとそうではない。他のことにエネルギーを向けたいと思っている子どもたちにとってのベストなプログラムは、プログラムに参加しないことだ。多くの保護者が、スポーツに興味を示さない子どものことを不必要に心配してしまう。その保護者がスポーツでポジティブな経験をしていれば特にそう思ってしまうだろう。彼らは、スポーツ以外のことをする子どもが普通ではないと思ってしまう。しかし、子どもの意志に反してスポーツを強要することは大きな間違いに結びつくことがある。子どもが自分の能力や興味に合った他の活動に参加することを(少なくとのスポーツへの興味を持つまで)勧める事が最も賢明な判断である場合も少なくない。

 保護者がスポーツを理解し、その良さを感じていれば、子どものスポーツ参加をより楽しむことができる。基本的なルール、スキル、戦略といった知識がその例だ。コーチは、保護者の質問に答えたり、あるコミュニティーや図書館を紹介したり、教育教材(書籍やビデオ)などがある書店を紹介したりすることで、貴重な情報源になり得る。たとえば、「スポーツでの子育てへの熟達型アプローチ(Mastery Approach to Parenting in Sports)」というタイトルの自習型DVDは、保護者が熟達動機づけ雰囲気をつくり、コーチらと“同じ土俵”で一緒に活動する支援を提供することを目的に作られている。加えてコーチは、シーズン始めの練習の一部を、そのスポーツの基礎に関するレクチャーやデモンストレーションに時間を割くべきだ。そのスポーツについてほとんど知識がない保護者を、そのセッションに参加するように勧めることが望ましい。


逆依存現象

 保護者はユーススポーツで自分達がかなり積極的に活動しなくてはならないと思い込んでいる場合が少なくない。そして、この親の影響が看過できない子どもたちのストレス源となっている。保護者によって引き起こされるストレスの根底にある一つの要因は「逆依存現象(reversed-dependency phenomenon)」と呼ばれている。全ての保護者が、ある程度、自分の子どもと自分を重ね合わせ、彼らに好成績を挙げて欲しいと思う。不幸なことに、同一視の程度が過剰になり、子どもが保護者の延長部分になってしまう場合がある。これが起こると、保護者は自らの価値を、息子や娘の成功や失敗をもって定義し始めてしまう。過去にアスリートとして達成し得なかった夢を、自分の子どもを通して経験しようとする、“挫折した騎手”になっている父親もいるだろう。スター選手だった保護者は、自分と同じレベルの成果をあげないと、憤慨したり拒否したりする行動にでるかもしれない。このように子どもを通して自分が“勝者”や“敗者”になる保護者が存在し、子どもが秀でるためにかけるプレッシャーが極端になってしまっていることもある。子どもが成功しなくてはならず、でなければ保護者のセルフイメージが脅威にさらされてしまうのだ。このような場合、試合の勝敗よりもはるかに大きなものが危険にさらされている。そのような保護者を持つ子どもは重荷を背負うことになる。保護者からの愛情と承認がパフォーマンスの出来に依存していたら、スポーツがとてもストレスなものとなってしまう。

 コーチは、この過度な同一視現象が起こるプロセスを保護者に説明することによって、この傾向を食い止めることができる可能性がある。コーチは、保護者が子どもに過剰なプレッシャーをかけることで、スポーツの楽しみや、スポーツから得られる人間的成長の可能性を低減させてしまう可能性があると伝えることができる。保護者に由来するストレスを少なくする鍵は、ユーススポーツプログラムは子どもたちのために行われているのであり、子どもは大人ではないのだということを、保護者に対して強調することだ。参加すること、人間的成長、そして楽しみが強調された雰囲気の中で、個々の子どもが運動能力を伸ばしていく権利を保護者は認めなくてはならない。


コミットメントと承認

 ユーススポーツ保護者が出くわす挑戦は他にもある。スポーツプログラムの成功に貢献するためには、保護者はさまざまな方法で献身的な働きを前向きに行っていかなくてはならない。次に挙げた質問は、保護者の責任の範囲を想起させる重要な問いである。保護者が正直に“はい”と答えなくてはならない質問である。


「息子や娘を共有することができますか?」

 子どもを預け、スポーツ経験を導いていくコーチを信じることが求められる。コーチの権威を受け入れ、一時は保護者に全てが向けられていたであろう愛情と管理のいくらかをコーチが得ることを受け入れる。このコミットメントは、保護者が何かものを言ってはならないということを意味している訳ではない。しかし、コーチがボスであることを認める必要がある。保護者がコーチのリーダーシップを傷つけるようとするのであれば、関係者全員のために、自分の子どもをプログラムに入れないようにしたほうがよい。


「子どもの落胆を受け入れられますか?」

 全ての子どもアスリートは競技のプロセスを通して“勝利のスリルと敗北の苦しみ”を経験する。勝利を楽しむことに加え、保護者は子どもが落胆していたり傷ついていたりするときに支援することが求められる。息子や娘が試合に負けて泣いているときに行うべきことは、当惑させたり、恥ずかしめたり、怒ったりすることではない。明白に落胆しているとき、保護者は子どもたちがその経験から何かを学ぶ支援をするべきである。子どもがそのような気持ちになることを当然のこととして受け入れて支援をすることで、子どもたちが今自分がおかれた状況のポジティブな側面に目を向け、落胆を自己受容へと変化させられる。


「子どもに自制心を示すことができますか?」

 保護者は子どもがどのような振る舞いをするかの重要なロールモデルであることを忘れてはならない。自分自身の制御ができない保護者の子どもが、感情を爆発させたり自制力が足りなかったりしやすいことは不思議ではない。これらの素養が明らかに欠けた保護者の子どもに、スポーツマンシップや自制心をコーチが教えていくことはかなり難しい。


「子どもに時間を与えられますか?」

 どのくらいの時間を子どものスポーツ活動に割くことができるかを決定する必要がある。保護者がとても忙しく、同時に子どもを励ましたいと思っていると、そこに対立が起こりやすい。これを避けるために、コーチが保護者に対してできる最善のアドバイスは、どのくらいの時間を割くことができるのかを正直に考え、実際に避ける時間よりも多くの時間を約束しないようにすることだろう。保護者に対して、子どもにスポーツ経験について質問をし、いくつかの試合を応援する最大限の努力をするように勧めるべきだろう。


「子どもに自分の意思決定を任せられますか?」

 自分の行動や意思決定の責任を受け入れることは、成長の不可欠な一過程である。コーチは保護者に対して、スポーツに関する提案や導きをするように働きかけるけれども、最終的には分別ある制限の内で子どもたちが自分の方向性を自分で決めていくことを奨励してくべきだろう。全ての保護者が子どもの将来に期待をしているだろう。しかし、子どもの人生を支配することはできないということを受け入れなくてはならない。スポーツは、保護者が子どもを独り立ちさせる挑戦を親に与えてくれるものでもある。


スポーツイベントでの振る舞い

 最も目立つ保護者の問題は試合での好ましくない素行である。保護者の責任の一つとして、保護者は子どもがスポーツで競っているところを観るべきだろうが、素行は受容できる範囲でなくてはならない。いくつかの明らかに不適切な行為(口汚い罵り、飲酒、物を投げるなど)に言及することに加え、次に示すような保護者の行動規範(すること、しないこと)に従うことが勧められる。

  1. イベント中は観客エリアにとどまること。

  2. コーチの邪魔をしない。練習やゲーム中は、保護者は子どもに対する責任を喜んでコーチに委譲しなくてはならない。

  3. 子どもたちに興味を示し、励まし、支援する。良いパフォーマンスもだが、よい努力に対する応援を忘れない。努力をすることが大切であるというメッセージを繰り返し送る。

  4. 子どもたちに対して叫んで指示や批判をしない。

  5. コーチや審判らが支援を求められると進んで協力する。

  6. 両チームのアスリート、他の保護者、審判、コーチらに対して暴言を吐かない。

 行動規範を守れない親にはどう対処すればよいだろうか。観客の優れたスポーツマンシップを求めていくこともやりがいがある。保護者は自分の行動だけでなく、必要であれば他者の行動もコントロールしていくようにする義務がある。保護者が問題行動が起きたとき、その状況を修正していくために介入するのは、他の保護者やリーグの管理者の役割である。全観客が意識すべきは、観客の行動が子どもたちがスポーツを楽しむ邪魔とならないようにすることだ。


 

 昨日の記事でユーススポーツの目的について語られていました。それらの目的を達成していくためには、コーチだけでなく、保護者の関わりがとても重要になってきます。子どもたちが多くの時間を共に過ごす保護者がどうユーススポーツと向かい合うかがとても重要であることが今回の記事で読み取ることができたと思います。

 特に印象に残っているのが、保護者が自分と子どもを同一視し、自分が保護者としてでなく、アスリートとしての思考でさまざまな行動を起こしているということです。保護者の問題として書かれていますが、実は同じ状況に陥っているコーチも少なくないのではないでしょうか。自分がアスリートになってしまっているコーチ・・・。もちろんそれが必ずしも悪いという訳ではありませんが、コーチとしての立場で、コーチが果たすべき機能を果たせなくなってしまう危険性も十分にあり得るため、自分がどのような立場であるのかを常に自分に問いかけておくことも必要ではないかと思いました。

 次回は「双方向コミュニケーション」について紹介する予定です。お楽しみに。(伊藤雅充)■

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