top of page


STB第5回「効果的なフィードバック」
第5回目の授業のテーマは「効果的なフィードバック」です。今回の授業を通して、コーチとしてどのような関わり方をしていけば、アスリートの学習を促進させることができるのかを学んでいきましょう。 コーチの存在意義は? 運動学習理論を学んだ時、アスリート自身の中で適切なフィードバックを行うことがスキル向上に不可欠な要素であることを述べました。運動を実施するのはアスリートであり、アスリート自身が自らの意志でどのように体を動かしていくかが問われるスポーツにおいて、スキル向上に関する最も重要な観点はアスリート自身が主体的に自分をコーチングしていくことにあることは想像に難くありません。 そのことを大前提におきつつ、コーチの果たすべき役割を考えていくことが重要です。アスリートが自分の力でできることがたくさんあります。自分でできるところをコーチが良かれと思って手伝うことで、一人でやる能力を奪い取っているなどということも十分考えられます。とは言うものの、自分の修正すべき点が自分ではよく変わらない場合があるのも事実です。コーチが、アスリートとは違った視点を提供したり、

伊藤雅充
2021年4月11日読了時間: 11分


STB第6回「非線形学習理論の概要」
第6回目の授業を始めましょう。今回の新しいテーマは「非線形学習理論の概要」です。 システム思考 どのようなフィードバックが効果的かについて、さまざまな側面に触れてきましたが、結局のところ、絶対うまくいくフィードバックというものを断言することはできませんし、逆に絶対的にダメなフィードバックというのもはっきりと言うことができません。なぜかというと、It depends…つまり、時と場合によって同じフィードバックを与えたとしても、それによって引き起こされる結果が異なってくるからです。この点については第5回「効果的なフィードバック」の回でも触れました。コーチングは混沌の中で行われる構造化された即興であり、何が効果的なコーチングとなるかは、コーチングが行われる文脈に依存するのです。文脈とは、そのコーチングが行われる場の特徴と言い換えることができます。文脈は常に変化しており、留まることを知りません。 時が流れ、それとともに全てのものが変化しています。みなさん、このフレーズは聞き覚えがあるでしょう。 祗園精舎の鐘の声、 諸行無常の響きあり。 娑羅双樹の花の

伊藤雅充
2021年4月10日読了時間: 11分


STB第7回「非線形学習理論の適用」
先週の授業で、非線形学習理論について学びました。今回と次回は非線形教授法について、もう少し詳細に解説することにします。 スキルの学習を目指した練習を作るとき、試合でのパフォーマンスを個々のパーツに分解し、それらを個別にドリル練習で繰り返し練習し、統合していくというパターンを思いつく人が多いと思います。この方法は、以前にも話をしたように、テクニック(技術)の練習はしていても、スキル(技能)の練習になっているかどうかは疑問です。みなさんがこれまでに行ってきたスキル練習を思い起こしてください。どのくらいの人が本当の意味でスキル練習をしてきたでしょうか。スキルは必ずしもステップ1→ステップ2→ステップ3と直線的な発達をするとは限らず、途中のステップを飛ばしてステップ3がいきなりできる人もいるでしょう。直線的な学習理論が当てはまらないこともありますから、非線形の学習理論もしっかりと頭に入れておき、その場の状況に応じていろいろ使い分けられるようにしておきましょう。 非線形の学習理論をコーチングに活かす 非線形学習理論を単純な動作を学ぶ際にどう活用するかを

伊藤雅充
2021年4月9日読了時間: 12分


STB第8回「非線形学習理論の実際(Game Sense)」
第6回、第7回と非線形の学習理論とそれに基づく教授法について基礎的な内容について概説してきました。要素還元主義的なやり方では複雑で動的なゲームのスキルを身につけることは容易ではなく、特にサッカーやラグビー、バスケットボールなど、オープンスキル系(求められるスキルが予測困難な種目)のスポーツではもっと違ったやり方が求められてきました。体操競技や陸上競技、競泳といったクローズドスキル系(求められるスキルが比較的予測可能な種目)のスポーツでは、オープンスキル系のスポーツほどはゲーム性が求められないものの、非線形の学習理論そのものは大いに役立つ考え方であるといえます。 今回は特にオープンスキル系の種目を行っている人には腹落ちしやすい内容であると思います。一方でクローズドスキル系の種目を行っている人には、直接的にピンとこないかもしれません。しかし、人間がどのように運動を学んでいくのかという観点から考えれば、どのような種目を専門としていようが関係ありません。非線形の学習理論をオープンスキル系の種目がどのように練習に取り込んでいっているのかを学び、自分の競技

伊藤雅充
2021年4月8日読了時間: 7分


STB第9回「バイオメカニクス的考察(運動の法則)」
第9回から、バイオメカニクス的視点から動作を観察、分析、理解していく能力を高めることを目的として授業を展開します。スポーツバイオメカニクスの授業が3年時に設定されていますので、詳細についてはその授業で学ぶこととし、スポーツトレーニング論Bの授業では、あくまでもスキル向上にバイオメカニクス的視点を活用するという観点からの考察にとどめます。 バイオメカニクスとは バイオメカニクスという言葉を聞いただけで、「難しそう」と敬遠したがる人もいるかもしれません。どのような学問も細部に入っていけば、理解は容易ではありませんが、実学としてのスポーツバイオメカニクスは、スポーツの競技力向上を目指す人であれば好き嫌いに関係なく、必要性を感じるもののはずです。バイオメカニクスが目的ではなく、競技力向上を目的にしているのですから、競技力向上に役立つのであれば、それを勉強しないという選択をする人は競技力向上を真剣に考えていないという人ということになるでしょう。 バイオメカニクスは、生体や生物を意味するバイオと、機械や機械が動く仕組み・機序、力学を意味するメカニクスが合

伊藤雅充
2021年4月7日読了時間: 20分


STB第10回「バイオメカニクス的考察(重心・姿勢の安定性・フットワーク)」
第10回目の授業を始めましょう。前回からバイオメカニクスの知識をスキル改善に役立てることを目的とした授業を展開しています。今日の授業では重心、姿勢の安定性について扱い、関連してフットワークに関する分析を紹介します。 重心 みなさんは「重心」という言葉を何度も聞いたことがあると思います。スポーツの場面でも「重心を落とせ!」といった表現が普通に使われています。簡単に使っているものの、この重心とは何なのか、まずそれを学びましょう。 重心は英語ではCenter of Gravityと言います。直訳すると重力の中心です。みなさん、自分の体で考えてみましょう。体を頭部、手、前腕、上腕、体幹、大腿、下腿、足に分けて考えると、それぞれの部分に重力が働いており、それぞれが地球の中心に向かって引っ張られていますね。それぞれに働く重力を一つにまとめた合力の作用点を重心と呼んでいます。 ちょっと簡単な実験をやってみましょう。あまり形の変わらないものを用意してください。どこでも摘まめるものが都合良いと思います。任意の場所を軽く摘まんでぶら下げてください。そして摘ま

伊藤雅充
2021年4月6日読了時間: 10分


STB第11回「バイオメカニクス的考察(慣性モーメント・ムチ作用)」
第11回の授業では「慣性モーメント」と「運動連鎖(からだのムチ作用)」について扱います。いきなり難しそう、というイメージを持った人、自分の固定概念に負けないようにしてください。記憶しようとすると手強いですが、自分の経験と合わせて理解していこうとすれば、それほど難しいものではありません。 慣性モーメント 以前の授業で「慣性」について学びましたが覚えているでしょうか。どういうことを慣性といったのか、心の中ででも大丈夫なので説明してください。「慣」は「慣れ(なれ)」ですね。慣性の意味をうまく説明できないという人は、慣れるという言葉をどのようなときに使うかを考えてみると覚えやすいかもしれません。皆さんもオンライン授業へと変化があったときには多少戸惑ったかもしれませんが、徐々に慣れてきて、普通に思ってきているのではないでしょうか。むしろ、この状態になれてくると、逆に対面式授業へ参加することがおっくうになってしまう人もいるかもしれません。その状態に慣れるというのは、その状態から変化しない、その状態を続けるといった意味になります。同様に、物体の慣性というのは

伊藤雅充
2021年4月5日読了時間: 10分
STB第12回「バイオメカニクス的考察(バネ的特性)」
第12回はバイオメカニクス的考察でヒトの体のバネ的特性についてみていくことにします。 バネ的特性 先週の授業で体のムチ作用について扱いました。ヒトの四肢は体幹に近いほど質量が大きく、末端に行くにつれて質量が小さくできています。この構造の特性を活かし、さらに慣性モーメントを操ることで、よりスピーディーでパワフルなスポーツパフォーマンスが可能になります。体幹部分に存在する大きな筋群を使って運動を起こし、そのエネルギーをうまく末端に伝えていく体の使い方(例えば「から竿」作用を使いこなして)ができているかどうか、皆さんの練習や試合の場面で観察してみましょう。 ムチ作用の効果を得ていくためには、から竿作用だけでなく、ヒトの体に備わっているバネ的特性をうまく活用する必要があります。もう少し、このバネ的特性を詳しくみていきましょう。 垂直跳びで考えてみよう みなさんの周りに垂直跳びをするスペースがあれば、試しに垂直跳びをやってみてもらいたいと思います。ただし、以下の条件でやってみてください。 立位姿勢からごく普通に垂直跳びを行ってみましょう。(通常垂

伊藤雅充
2021年4月4日読了時間: 10分


STB第13回「スキル練習メニューの開発」
ここまでの授業で、効果的、効率的なスキルトレーニングの理論について学んできました。一度、その内容を振り返っておりましょう。 第01回 スポーツトレーニング論Bの導入 第02回 効果的なスキルトレーニングとは 第03回 運動学習理論の概要 第04回 練習の種類 第05回 効果的なフィードバック 第2回から第5回までは典型的な運動学習理論について学びました。人間の動作が起こる機序(様々な情報の入力→情報処理→命令の伝達→骨格筋の活動→結果の表出)と、その動作を理想に近づけていくためのフィードバック回路が主なテーマでした。様々な研究結果を踏まえれば、「学習は学習者本人が行うもの」という、ごく当たり前なことが浮かび上がってきます。筋トレでは筋に対して適切な過負荷を与えることによって筋の発達を促すように、スキルのトレーニングでは脳に代表される神経系に適切な過負荷を与えることによってスキルの発達が促されるのです。コーチが代わりに学習をすることはできません。コーチの役割はあくまでも学習者の学習を促進させる手助けをするのだということを、しっかりと理解

伊藤雅充
2021年4月3日読了時間: 8分
STB第14回「スキル練習メニューの改善」
第14回目の授業は、第13回授業でそれぞれが作成したスキル練習メニューの改善をします。 チェックポイント 運動学習の理論に基づいたメニューになっているか 学習者が主体的に取り組む工夫が計画されているか 環境 各アスリートが適切な活動の時間を確保できているか(例:何もしていない待ち時間が長すぎないか) スキルトレーニングのイノベーション この授業はこれでおしまいとなります。これまでに聞いたことのないアイデアをたくさん仕入れることができていればとても嬉しく思います。今、皆さんを指導しているコーチらがどのような練習メニューを組んでいるかを考え、それらを批判的かつ建設的な評価をしてみてください。これは皆さんの指導者のダメ出しをするという意味ではありません。日本体育大学でスポーツを学び、スポーツを実践するということは、他の大学でスポーツを行うのとは違った意味があるはずです。特に競技スポーツ領域の学生は、今自分の指導者が行っている指導をさらに発展させ、よりよい形に改善し続けることが求められます。同じことの繰り返しではなく、新しい発想をもってスキル

伊藤雅充
2021年4月2日読了時間: 2分
STB第15回「スキル練習メニューのイノベーション」
スキルトレーニングのイノベーション この授業はこれでおしまいとなります。これまでに聞いたことのないアイデアをたくさん仕入れることができていればとても嬉しく思います。今、皆さんを指導しているコーチらがどのような練習メニューを組んでいるかを考え、それらを批判的かつ建設的な評価をしてみてください。これは皆さんの指導者のダメ出しをするという意味ではありません。日本体育大学でスポーツを学び、スポーツを実践するということは、他の大学でスポーツを行うのとは違った意味があるはずです。特に競技スポーツ領域の学生は、今自分の指導者が行っている指導をさらに発展させ、よりよい形に改善し続けることが求められます。同じことの繰り返しではなく、新しい発想をもってスキルトレーニングのイノベーション(革新)を行っていかなくてはなりません。 この授業を終わるにあたり、皆さんにいくつかの言葉を紹介します。 「ロウソクをいくら改善しても電球は生まれない。」(オレン・ハラリ) 「違う結果を求め、同じことを繰り返す。それを狂気という。」(アルバート・アインシュタイン)...

伊藤雅充
2021年4月1日読了時間: 2分
bottom of page
