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コーチと保護者のミーティングを実施する[論文紹介]

「ユーススポーツにおけるコーチと保護者の関係を強める:調和を増進させ悩みを最小化させる」(Smoll, Cumming, Smith, 2011)の論文紹介の第4部(最終回)で、話題は「コーチ・保護者ミーティングの実施」です。練習や試合をしていく中で起こりうる保護者に関わる課題を最小限に食い止めるために、年度初め(文中ではシーズン前という表現になっています)に保護者のミーティングを設定して、しっかりと双方向コミュニケーションのチャンネルを作っておくことを勧めています。文脈が北アメリカのもので、日本でどうかという部分もありますが、さまざまなアイデアをもらうことはできるはずです。


過去の記事へのリンクはこちらからどうぞ。


最後に、第1部から第4部で紹介したこと全部をまとめる「結論」がありますので、そこで再度全体を振り返ってみてください。それでは今日のところをどうぞ。


 

コーチと保護者のミーティング

 コーチは利他的に膨大な時間と努力を注ぎ込み、子どもたちに価値ある経験を提供できるように努力している。たいていは「もう一つお願い」をされる。しかし、成功するコーチは広い見識を持った保護者の補助や支援の重要性に気づいている。問題行動をする保護者に対応しなくてはならなくなるよりも、シーズン前のミーティングで不愉快な経験をする機会を減らすような努力をしておくことが重要である。言い換えれば、コーチ・保護者ミーティングを行うために時間を費やし努力をするだけの価値が十分にある。

 ここでは、効果的なコーチ・保護者ミーティングを計画し実施するためのガイドを提供する。それぞれのコーチが個性豊かであるため、得られる情報と提案を評価し、それぞれの事情に合わせて修正を加えていく必要がある。


ミーティングの目的

 コーチ・保護者ミーティングの目的は、a)ユーススポーツについて保護者の理解度を上げること、b)保護者の協力と支援を取り付ける、ことである。そして、保護者からの意見は、子どもたちの身体的、心理的、社会的発達に向けたスポーツ参加の価値を向上させてくれる。


計画と準備

 コーチがコーチ・保護者ミーティングを実施することをためらうことは珍しいことではない。なぜなら、大人の集団をリードすることに不安を感じるからだ。ほとんどトレーニングされていなかったり過去の経験がないことを実施することを避けたいと思うことは、珍しいことではない。すでに保護者とのミーティングを開催したことがあるコーチであれば、それが思ったほど大変なことではなく、得られる利益からすれば、ミーティングがとてもよい投資機会になると感じられるだろう。

 おそらく必要なトピックを全て扱うには75分くらいは必要だろう。ミーティングを成功させるために、精巧に作り込む必要はない。しかし、十分に準備し、企画しておくことの重要性については、いくら強調してもしすぎることはない。企画の質を高めるために、プログラムのアウトラインを書き、それをもとに進めていくことをお薦めする。

 コーチはシーズンのできる限り早い段階で行えるようにスケジューリングをする。使う施設が容易にアクセスが可能で、適切なサイズのミーティングルームがあり、椅子や照明、その他の設備が揃っていることを確認しよう。アスリートはミーティングに参加すべきか?全く反対せず、プログラムに関わる全ての人のコミュニケーションを向上させるのに役立つと信じるコーチもいる。他のコーチは、アスリートの同席がないほうがより建設的なミーティングを運営することができると思うだろう。コーチの個人的な好みでどのようなポリシーをとるかが決まってくる。しかし、アスリートを除外すると、子ども同伴でないと参加できない保護者のために別の機会を作る必要がでてくる。たとえば、追加の部屋を確保しておいて、アシスタントコーチの監督の下、子どもたちを集めて教育的なスポーツビデオを視聴させるという方法もある。

 保護者には個別に招待文を送るべきで、ミーティングの目的、その重要性、日時、場所、アクセス、子ども同伴か否かについて知らせておく。チームのメンバーの住所、電話番号、電子メールアドレスを書いた一覧を手紙に添付して送るようにする(伊藤注:個人情報保護の観点から、リストに名前が載る人たちの同意が得られていない時点でリストを配布することは控える。ミーティングの場でリストを作成して共有するかどうか判断することを勧める)。ミーティングについてリマインドするメールを送るようにすることをお薦めする。


ミーティングの内容と実施

 先に述べたように、効果的なコミュニケーションは双方向の情報共有によって成り立つ。したがって、ミーティングを行うとき、コーチは保護者に対して講義するのではなく、一緒に議論に参加できるようにする必要がある。コーチはこのことを、a) 保護者に質問をするように促す、b) 保護者にときどき質問を投げかける、ことによって実現できる。また、意見交換のためのオープンな雰囲気を作るために、保護者に敬意を表することがとても重要である。保護者が単なる聴衆だと感じるのではなく、ミーティングに貢献していると感じられるようにすべきである。


オープニング(5分)

 コーチは、アシスタントコーチも含めて自己紹介からミーティングをスタートさせる。保護者を歓迎するときに、保護者が興味や関心を示すことがとても有り難いことであると知らせることが大切だ。彼らの出席を称賛するときには、コーチは保護者が子どもたちの質の高いスポーツ経験を確かなものにしていくことに対して重要なステップを踏んだということを指摘する。次に適切な背景情報を提供することで信頼度を高める。コーチ自身のスポーツ経験について話し、コーチとしての経験、受講してきたトレーニングに関する情報(たとえばワークショップやクリニック)についての情報を話す。最後に、ミーティングの目的を指摘し、保護者に当該スポーツの基礎情報をどのように提供するのかについて説明する(練習セッションに参加してもらう)。

 注意すべき点は整理された状態で進めていくことだ。コーチ・保護者ミーティングの経験がほとんどない、あるいは今回初めて実施するとしても、その事実を自分の弱点として公表したり保護者に我慢して欲しいとお願いすることはしないほうがよい。その話で保護者の信頼や支援を少なくしてしまうかもしれない。自虐的な発言は、コーチがミーティングを運営する能力を疑わせてしまう。尊敬を得るためには、コーチはセッションをリードするのに自信を示す必要がある。


ユーススポーツの目的(10分)

 子どものスポーツ活動の目的に関する議論(たとえば勝利に関する熟達志向哲学)がオープニングの話に続いて行われるべきだ。コーチは自分のコーチングの重要な部分を占める、それらのゴールや価値に焦点を絞るべきである。また、コーチは保護者らが強調したいと思っている目的を見つけ出すようにすべきだ。先に指摘したとおり、もしコーチと保護者が、誤解を起こさないようにするために共に働けば、目的は達成できるだろう。


スポーツプログラムの詳細(10分)

 スポーツプログラムがどのように運営されるのかの詳細を説明することも重要な部分となる。そこでは、次の点に配慮をする:a) 必要な用具とどこで購入できるのか、b) 練習と試合の会場とスケジュール、c) 練習と試合の長さ、d) チームの遠征計画、e) 主なチームルールとガイドライン、f) 該当する競技レベルにおいて用いられる修正ルール、g) 健康診断、h) 保険、i) 資金集めのプロジェクト、j) 練習や試合の中止などを知らせるコミュニケーション手段、k) シーズン中とシーズン後のイベント。

 プログラムの詳細に関連して、アスリートと保護者が期待されることについての情報も併せて提供するようにする。保護者委員会を組織することが役に立つと思っているコーチもいる。委員会にシーズン中のさまざまなアクティビティへの保護者の関与をコーディネートしていくことをお願いすることも可能だ。


コーチの役割と関係性(10分)

 コーチがどのようなリーダーシップスタイルを採るのかについて保護者が知ることにはメリットがある。熟達アプローチを採用することを説明し、コーチは保護者にも子どもとやりとりをする際にこのアプローチを使ってみることを勧めるべきである。


保護者の責任と挑戦(20分)

 保護者に対して、コーチが期待する保護者の責任について知らせることは、このミーティングの最も重要なものとなる。コーチは、この記事の最初のほうでも言及したが、次の点について議論をすべきである。

  1. 逆依存現象の危険性

  2. 保護者のコミットメントと承認 – 保護者が正直に「はい」と答えなくてはならない5つの重要な質問

  3. スポーツイベントでの行動規範 – コーチはチームの行動に責任があり、保護者は自分達の振る舞いに責任を持つ


コーチ・保護者関係(5分)

 コーチは保護者に対して起こりうる、どのような問題についても喜んで双方向コミュニケーションによる対話をすることを伝えるべきである。コーチは保護者に対してどの時間や場所が都合良いのか伝えておくべきである。


クロージング(20-30分)

 コーチ・保護者ミーティングは質疑応答で締めるようにすべきだ。この時間が有意義なものとなるように、コーチは保護者のさまざまな心配事をカバーできるように準備をしておかなくてはならない。さまざまな種類の質問に答えるためには、前述のスポーツ保護者DVDはとても優れた情報源となり得る。

 質疑応答をスタートする効果的なテクニックとして、コーチが質問を出していくのをリードしていくものがある。コーチが最初のいくつかの質問を投げかけ、保護者が関わりやすいように刺激する。そして、そこから議論に入っていく。もし、保護者の質問に対して答えることができなかったとしても、答えを知らないということを認めるのを恥ずかしいと思うべきではない。保護者はその正直さを評価してくれるだろう。曖昧、あるいは間違った答えをするよりも、保護者とともに答えを見つけようと提案する、あるいはそこにいる人達の中で答えを提供できる人がいるかどうか尋ねるほうが賢明だ。全ての質問に答えなくてはならないという印象を与えるべきではない。最後に、保護者にこのミーティングに参加してくれたお礼を言うようにする。

 コーチ・保護者ミーティングは、保護者を活動に巻き込み、支援を取り付けるために、極めて重要なツールである。効果的なミーティングはアスレティック・トライアングル(コーチ・保護者・アスリートのトライアングル)のまとまりを強固なものにし、子どもたちがポジティブなスポーツ経験をすることへと導いてくれるだろう。


フォローアップミーティング

 可能であれば、シーズン中に保護者とのミーティングを行うように調整することが望ましい。これにより、保護者に注意点等を思い起こしてもらったり、アスリートらの向上を話し合ったり、出てきた課題に対する解決策をともに考えたりする機会を提供できる。

 シーズン後のパーティーは、シーズンを締めくくる優れた方法だ。保護者企画の家族夕食会の形で実施することもできる。好ましい共同体感覚や楽しみに加え、コーチはプログラムやコーチングに対する保護者の評価を得る時間を確保するとよい。コーチは保護者に対して、うまくいった点を述べると同時に、改善点を保護者から提案してもらうようにする。


結論

(伊藤注:この結論は4日間連載してきた論文全体の結論として執筆されています。)

 本論文は、ユーススポーツにおいて忘れられがちなコーチと保護者の関わりについて扱った。ここでの議論はアスリートのスポーツ経験の質を向上させるために、効果的なコーチ・保護者関係を構築していくことを促すものであった。その中で、以下の点について強調してきた。

  1. コーチと保護者はともにユーススポーツのスポーツ参加を決定する重要な役割を果たす。

  2. 発達モデルにおいては、スポーツは学習の場を提供し、個人的な成長と発達の観点で成功か否かが測られる。

  3. ユーススポーツへ参加することで、子どもたちは、身体的スキルと体力向上、人格形成、社会的スキル獲得、家族の絆の強化、楽しい娯楽経験を得ることができる。

  4. 楽しみはプレイの本質であり、効果的なユーススポーツ経験の核となる。

  5. 子どもたちが卓越性を求めて最大限の努力をしていれば、決して“敗者”ではないと教えられるべきだ。

  6. 熟達アプローチプログラムは、保護者とコーチに熟達動機づけ雰囲気を作る方法を教授することを念頭にデザインされたもので、スキル発達、個人・チームの成功、最大限の努力、楽しみを強調している。

  7. 子どもたちは楽しみ、スキルを向上させ、スリルと興奮を味わい、友達を作るためにスポーツに参加している。勝つことは、これらに比べれば重要ではない。

  8. 保護者は、子どもがスポーツをするようにプレッシャーをかけたり、強要したり、賄賂を与えたりすべきでない。

  9. 保護者は基本的なスポーツのルール、スキル、戦略を学ぶべきである。

  10. コーチは保護者にとって価値ある情報源となり、彼らの疑問に対してできる限り回答をすべきである。

  11. 保護者が誘発するストレスを低減するには、彼らに対して、ユーススポーツが子どもたちのためにあるものだということを強調することが重要である。

  12. 保護者は自分の子どもがスポーツに参加することを承認し、コーチのプログラムを支援しなくてはならない。

  13. 保護者は練習や試合での行動規範を受け入れなくてはならない。

  14. 保護者との関係において、オープンで健康的なコミュニケーションができる関係を構築し、維持していくことが欠かせない。

  15. 効果的なコミュニケーションは双方向性のものであり、話すスキルと聴くスキルの両方が必要である。

  16. シーズン前のコーチ・保護者ミーティングを持つことが、その後の不愉快な経験を避ける鍵となる。

  17. コーチ・保護者ミーティングの主たる目的は、保護者のユーススポーツに対する理解を促し、保護者の協力と支援を得ることにある。

 

 これで「ユーススポーツにおけるコーチと保護者の関係を強める:調和を増進させ悩みを最小化させる」(Smoll, Cumming, Smith, 2011)の紹介が完結しました。今日の記事の最初にも指摘しましたが、文脈の違いを感じ取ることができた回ではなかったかと想像します。もちろん、文脈が異なれば、効果的なコーチングの方法論も異なってきます。コーチとしての学びを考えれば、自分達の知っていることの中だけで考えていては、より良い方向にコーチングを改善していくのに限界がでてきます。この論文の中からひとつでもやってみようかな、というものが見つけられていれば嬉しく思います。

 今回の記事を準備するために、再度この論文をしっかり読んでみましたが、指導者としての自分と、親としての自分の両方の観点から、さまざまな回想をしている私がいました。私の今の立場は直接コーチングするというよりも、コーチデベロッパーとしてコーチの皆さんを支援する立場にありますし、保護者という観点からすればテニスをしている息子は既に大学4年生ということで、ユーススポーツの親という感じではなくなっています。これまでの経験を糧に、国内外の新しい情報を集め、少しでも今、そしてこれからユーススポーツに直接関わっていく大人の支援をすることで、多くの子どもたちが少しでも良い経験ができるように活動をしていきたいと思います。それが、私がこれまでにしてきたことのせめてもの罪滅ぼしかと!(伊藤雅充)■

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