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執筆者の写真伊藤雅充

RE: S&Cコーチがアスリートのリーダーシップ能力を育てる (4) 

更新日:2020年6月7日

〜アナリストも変革的リーダーシップ導入が可能!〜


 今回は、変革的リーダーシップに関する記事をもとに、ラグビーアナリストとしての視点で船戸渉さんからコメントをいただきましたので、紹介させて頂きます。念のため関連記事へのリンクを貼っておきます。


コメントの元となった記事:第1回第2回第3回第4回

 

 昨年開催されたワールドカップで国内を大いに盛り上げているラグビーの元アナリスト・船戸渉と申します。2年ほど前まで福岡県を活動拠点とする企業チーム「コカ・コーラレッドスパークス」でアナリストを10年間しておりました。

 伊藤先生とは2016年に母校である日体大で学生アナリストや関係者のみなさまに、実際に社会人トップチームでアナリストをやっている者としてお話させていただいた際にお会いし、コーチング学の奥深さに引き込まれ、魅了されました。

 先日、伊藤先生がアップされた「ストレングス&コンディショニングセッション中にアスリートの変革型リーダーシップ行動を増加させる戦略」について拝読し、現場でS&Cをされている方々の生のコメントも拝読させていただき、非常に気づきと刺激の多い機会をいただき、感謝しております。


 今回はS&Cのカテゴリやセッションから見た内容でしたが、私はアナリストの視点に置き換え、いかにチームの中で「変革型リーダーシップ行動」を促し、育めたか、自身がやってきた活動から振り返ってみました。


 ラグビーという競技特性上、1チームの所属人数が多く、試合のフィールドには仲間が15人もいます。試合中は基本的に監督・コーチから直接指示が出されるような機会もないため、試合中は「キャプテン」という公式リーダーが非常に大きな責任を持ち、メンバーからは良くも悪くも全幅の信頼を得て試合を創っていきます。良くも悪くも・・・と表現する理由は、上記の特性などを踏まえ、キャプテンに全責任を任せてしまう選手もいれば、私一人がこれくらいは・・・という一時的サボタージュや理解不足の姿勢の選手も出てくるからです。だからこそ、チーム内に「変革的リーダーシップ」が重要となり、これを意図的にチーム内に浸透させ、全員がリーダーシップを持ってサポートしつつ、その全体統制をキャプテンが取ることで、真の「ONE TEAM」になれる競技だと感じています。


 そこで私がアナリストしてチーム内で実施してきたことについて、まずは私が選手と直接的コミュニケーションを取りながら行った個人的セッションについてお話します。

 近年のラグビーは戦略戦術の理解が非常に重要となり、パワーだけでできるラグビーはありません。心技体だけでなく、+知(ナレッジ)が求められます。自分のポジションに限らず、トータルのラグビー理解やチームの価値観・戦略戦術・知識をしっかりと理解していないとチームMTGでのコーチングスタッフからの共有が理解できないままになります。それは試合中の動きと分析結果に顕著に表れます。そこで私は選手とビデオ映像や分析結果を用いて個人的レビューをおこない、より成長するためのヒントを伝えながらも理解度レベルの確認や目指すべきゴールの設定について話をします。これを繰り返すことで、彼らの知識と自信は高まり、プレーの成長だけではなく、非公式なリーダーにもなって、チームにコミットした選手となっていきます。  試合直後では、公式のリーダーは自ら分析結果を求めに来る傾向が強く、すぐにビデオ映像を欲して、自身やチームのレビューをします。しかし、公式のリーダーではない選手にはこちらから声を掛けてビデオ映像を提供し、分析スタッツやビデオ映像の中での改善点や良かった点を伝えます。これを繰り返すことで、チーム内で自らレビューすることの風土醸成ができ、選手全員が主体的に自分の価値観も大事にしながら、意見を持つことができます。


 次に私は間接的コミュニケーションを取りながらおこなった、選手同士のサポートセッションについてお話します。

 個人セッションで直接的に話をした内容を基に、それを今度は同じポジションの選手同士で話し合うように促します。お互いの意見をぶつけたり、最善のプレーを模索したりするよう、分析用PCを渡してミニセッションをします。同じポジションだからこそ理解できたり、意見を言えたり、お互いのプレーを尊重できたりします。レギュラーに定着していない自己肯定感の低い、または意識が低下している選手には先輩選手がアドバイスなどをして、お互いが良きライバルとなり切磋琢磨できるような状態に持っていきます。このセッションでは文献中の「個別の配慮」、「インスピレーションの活性化」、「理想化された影響力」のすべてを含むものとなり、チーム内での変革的リーダーシップの開発を促すことに非常に有意あるものだと思います。お互いを認め合える環境ができると、ユニットセッションやチームセッションになっても個々が意見を言えるようになり、自分の役割や強みの理解が進むだけでなく、チーム内共有も進み、全体の連携的パフォーマンスの向上につながると思います。


 私が所属していたチームでは、アナリストはS&Cと違い、チーム内で単独のトレーニングセッションの時間を持つことはなかったため、トレーニング終了後や合間時間、もしくはリカバリー中の時間を活用し、選手とのセッションを組むようにしていました。しかし完全にはチームに上記のような文化を醸成できぬまま退任となりました。今後チーム内でアナリストのサポートから選手相互のセッションが増え、変革的リーダーシップの開発が進み、本当の「ONE TEAM」になってほしいと願うばかりです。

 

 私も2004年アテネオリンピックまで、バレーボールのナショナルチームアナリストをしていたこともあり、船戸さんのコメントを大変興味深く読ませて頂きました。当時から自分で考えて行動するアスリートになって欲しいという思いを持って、活動をしていたことを覚えています。しかし、その当時に、このような論文に出会っていたら、私のやり方ももっと違っていただろうなと思います。

 データはもちろん重要ですが、もっと大切なのは選手の主観、インスピレーションだと思っています。誰とは言いませんが、ナショナルチームの選手が「次はどっちをマークすればいい?」とゲーム中にベンチに向かって聞いていたとき、私は自分のデータの提供の仕方を間違っていたと猛烈に反省しました。いかにして選手の感覚を磨いていくか、自分で自分の行動に責任をもってプレーする選手を育成するかは、アナリストの重要な責務であると思います。自分に依存させない自律した選手だからこそ、データを活用できるのであって、データやアナリストに依存させてしまうような選手にしてしまったらアナリストとして大きな失敗ですね。今でも脳裏に焼き付いている「次はどっちをマーク?」の風景・・・。(伊藤雅充)


一連記事のリンク(2020年6月8日追加)



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