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変革型リーダーシップでパートナーとともに成長したい  〜ビーチバレーボールへの適用〜

更新日:2020年6月7日



皆さん、こんにちは。日本体育大学大学院コーチング学専攻博士後期課程2年の白鳥歩です。私は現役ビーチバレーボール選手としての活動を行いつつ、大学院でコーチング学を学んでいます。学部も日本体育大学でバレーボール部に所属していましたが、卒業と同時にビーチバレーボーラーとしての道を歩み始めました。しばらく選手として活動をしていましたが、2016年4月にさまざまな可能性を求めて大学院進学をし、今に至っています。大学院生とプロスポーツ選手というデュアルキャリアを歩んでいる自身の経験を通して、現役の時からコーチングを学ぶことにはたくさんのポジティブな側面があると感じています。まだまだ選手として精一杯頑張っていることもあり、フルタイムコーチとは違った視点からコーチングについて考えていますが、皆さんと多くの事を共有できたら幸せです。


 スポーツにおいて、公式なリーダーの役割をする代表的な人はコーチ(一般にコーチというと監督やアシスタントコーチなど、さまざまな指導的立場にある人全てのことを指します)とキャプテンだと思います。先日来、S&Cセッション内で非公式リーダーシップをアスリートに経験させることで、リーダーシップスキルを開発していくという話題について論文紹介とS&Cコーチの実践報告が行われてきました。この概念は私の行っているビーチバレーボール競技でも活用可能なことだと思いました。ビーチバレーボールでは、試合中はプレーしている選手以外からのコーチングが禁止されています。そのため、試合中に起きた出来事に適切に対応して、勝利に向かってさまざまな変化を加えていくことを、選手二人で行っていかなくてはなりません。競技特性を考慮すると、選手自身がリーダーシップ能力を向上させることで、お互いにより高いレベルで支え合うことが可能となり、チームの競技力に良い影響があるのではないかと考えました。

 そこでリーダーシップの在り方について文献等を探しているうちに、変革型リーダーシップ(Transformational Leadership: TFL)理論に出会いました。一言で言うならば、TFLとはフォロワー中心のリーダーシップ発揮のしかたです。リーダー(つまりコーチ)が、フォロワー(つまりアスリート)を信頼して多くを委譲し、自分にできるという感覚を持たせられるような行動をとることで、フォロワーを将来のリーダーに育てていこうとするやり方です。さまざまな分野でTFLの有効性が報告されているようですが、ここではスポーツコーチのリーダーシップ開発について解説されているターニッジとコティ(2017)の論文を参考にTFLについてまとめてみたいと思います。


 TFLは次の4つの側面から成り立っていると説明されています。

  1. 理想化された影響力Idealized influence):コーチはポジティブなロールモデルとして行動し、アスリートの信頼と尊敬を得られるようにする。

  2. インスピレーションの活性化inspirational motivation):目的の捉え方やチームの一体感を醸成することで、説得力ある未来像を示してアスリートを動機付ける。

  3. 知的刺激intellectual stimulation):コーチはアスリートを学習プロセスに関与させることで、クリティカル思考と創造性発揮を促す。

  4. 個別の配慮individualized consideration):コーチはそれぞれのアスリートのニーズと能力に最大限気を配っていることを示す。

それぞれの側面からコーチング行動をみてみたのが次の表です。(すみません、スマホでは下の方が切れてしまうかもしれません。)


 先行研究によれば、TFLは個人に対しても集団に対しても様々な好ましい影響を及ぼすことが報告されています。その効果として、アスリートの満足度、努力、内発的動機、パフォーマンス、心理的幸福、集団の凝集性などの向上が確かめられているそうです。たとえば、Vellaらの研究(2013)によれば、コーチがTFL行動をとることで、個人的なスキルや社会的スキル、認知スキル、目標設定、自発性に良い影響を与えることが報告されています。このように体育や組織、医療など、さまざまな領域で確認されているTFL行動の効果はスポーツにおいても十分期待できるといえます。そして、TFL行動はトレーニングによってスキルアップを図ることができるとされ(Barling, Weber, & Kelloway, 1996; Beauchamp, Barling, & Morton (2011)、その影響は直接トレーニングを受けているコーチだけでなく、コーチングを受けているフォロワーたち(子どもたちも含む)にもポジティブに現れてくるといいます(Barling et al., 1996; Beauchamp et al., 2011)。

 選手である私がTFL行動をとれるようになることで、パートナーにもパフォーマンスの向上や心理的な好影響といったポジティブな影響が期待できます。選手である私にとっては新しい大きな挑戦であるとともに、コーチとしての学びという側面からしてもやりがいのあることだと思います。コーチの学びはアスリートの時から始まっている(Werthner & Trudel, 2009)といわれており、きっと将来のキャリアにも役立つ学びができると思います。しかし、デュアルキャリアを実践していくのは、そう簡単なことではありません。選手がコーチングを学び、実践を通して挑戦していくためには、周囲のたくさん人の支援が必要です。自分が経験している困難や楽しみ、新しい学びを、エスノグラフィックにしっかりと書き残し、皆さんにもブログを通して報告しつつ、論文としてまとめていきたいと思っています。


引用・参考文献

  • Barling, J., Weber, T., & Kelloway, E.K. (1996). Effects of trans- formational leadership training on attitudinal and financial outcomes: A field experiment. The Journal of Applied Psychology, 81, 827–832

  • Beauchamp, M. R., Barling, J., & Morton, K. L. (2011). Trans- formational teaching and adolescent self-determined moti- vation, self-efficacy, and intentions to engage in leisure time physical activity: A randomized controlled pilot trial. Applied Psychology: Health and Well-being, 3, 127-150.

  • Turnnidge, J., & Côté, J. (2017). Transformational coaching workshop: Applying a person-centred approach to coach development programs. International Sport Coaching Journal, 4(3), 314-325.

  • Vella, S., Oades, L., & Crowe, T. (2013b). A pilot test of trans- formational leadership training for sports coaches: Impact on the developmental experiences of adolescent athletes. International Journal of Sports Science & Coaching, 8, 513–530

  • Werthner, P., & Trudel, P. (2009). Investigating the Idiosyncratic Learning Paths of Elite Canadian Coaches. International Journal of Sports Science & Coaching, 4(3), 433-449. (白鳥歩)


一連記事のリンク(2020年6月8日追加)



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