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S&Cコーチがアスリートのリーダーシップ能力を育てる(1)

更新日:2020年6月7日



 日体大の伊藤です。昨日のラグビー大学選手権で決勝を戦った早稲田大学と明治大学、素晴らしい戦いを制したのは早稲田大学でした。この両チームのS&Cコーチたちとはご縁があって、いろいろディスカッションをさせて頂く関係だったこともあり、この両チームが決勝の舞台で戦っていることが、私にとってはとても大きな出来事でした。そして思いついたのがS&Cコーチに焦点をあてた記事を起こしてみようという、なんとも安易な流れで今日の記事執筆に至りました。


 両大学ラグビー部のS&Cコーチは、一言で言うと、単にトレーニングをさせるだけのS&Cコーチではなく、もっと多くのことをセッション内に盛り込んでいる、ユニークなS&Cコーチたちです。いつか、彼らにお話をうかがって、記事にしてみるのも面白いかと思いますが、今回は内容的には関係するS&Cコーチに関わる論文を紹介することにしたいと思います。


 今回から数回に分けて紹介するのは、2019年にStrength and Conditioning Journalに掲載された「ストレングス&コンディショニングセッション中にアスリートの変革的リーダーシップ行動を増加させる戦略(Strategies to Increase Athletes' Transformational Leadership Behaviors During Strength and Conditioning Sessions.)」です。文献の詳細は↓


Smith, V., & Moore, E. W. G. (2019). Strategies to Increase Athletes' Transformational Leadership Behaviors During Strength and Conditioning Sessions. Strength and Conditioning Journal, 41(2), 31-37. doi:10.1519/SSC.0000000000000422


 まずは「はじめに」の一部をどうぞ。文中に出てくる(数字)は執筆者らが参考にした文献の番号で、実際の論文をみると一番最後にリストが付いています。今回は必要ないかなと思いましたが、さらに詳しく調べてみたいという大学院生らがいたときのためにそのままにしておきました。


 

はじめに

 ストレングス&コンディショニングコーチ(SCC)は、ストレングス&コンディショニングトレーニングセッション中にアスリートにリーダーシップをとっていくことを奨励することにより、アスリートのパフォーマンスとチームの凝集性を高めることができる。リーダーシップ研究者は、リーダーシップが複数の行動を含むことを示した(2,6,20,21)。他の行動と同様に、リーダーシップ行動は開発可能で修正することもできる(4,29,31,32)。伝統的に、スポーツにおけるリーダーシップは、正式なリーダーの役割を持つコーチやアスリートが発揮する(9)。しかし、最近、研究者はアスリートがチームメイトの非公式のリーダーシップに依存していることを強調している(10,19)。非公式のリーダーとは、正式または公式リーダーの役割を持たないチーム内の人(キャプテン以外、控え選手、下級生など)と定義できる(26)。したがって、すべてのアスリートが正式なリーダーシップの役割(つまりキャプテン)につくことはできないが、すべてのアスリートはリーダーシップ行動を発達させ、非公式のリーダーになることができる(3,9,17,21)。リーダーシップ研究は、効果的なリーダーに備わる行動とは何かを同定してきた(8,21,29)。効果的なリーダーの行動を紹介した後、SCCがアスリートのリーダーシップ行動開発をトレーニングプログラムに組み込む方法を紹介する。


 チームスポーツのアスリートたちは、リーダーシップをとる役割が少数のアスリートに与えられるよりも、チーム全体に分散させるほうを好むことが、質的研究を通して明らかとなった(10,19,23)。公式か非公式かどうかは関係なく、リーダーシップを発揮する行動は、集団の文脈内に起こる、他者に影響を与え目標達成を伴うプロセスとして特徴付けられる(28)。アスリートや研究者は、リーダーとして振る舞うアスリートがより多くいるほうが好ましいと勧めている(10,23,26)。チーム内に公式と非公式のリーダーの両方がいることで、アスリートの役割が明確になり、個人とチームのパフォーマンスにも良い影響がでる(10)。非公式リーダーであるアスリートが多いほど、アスリートの親密性が上がることによってチーム凝集性が高くなり、全員がチームに貢献するチームの一員であるという感覚を得ることができる(10)。チーム内でアスリートが担うことができる非公式リーダーシップの役割はさまざなものがある。非公式リーダーは付加的な動機、指示、フィードバック、ならびに個々の配慮や社会的支援を提供することができる(10)。アスリートは、これらの非公式リーダーについて、大変なトレーニングセッションや競技中に仲間を励ましたり、1対1で相談にのったりする、背中を見せるリーダーと表現している(例:常に100%で頑張るアスリート)(2,4,10)。アスリートのリーダーシップ行動の増加は、非公式リーダーとしてのアスリートの影響を増大させると同時に、将来正式なリーダーとして活用できるリーダーシップ行動の開発につながる。

 質的研究でアスリートらによって非公式リーダーの行動を表すものとして報告されたこれらの行動(インスピレーションの活性化、理想化された影響力、個別の配慮)は変革的リーダーシップ理論と一致する。この理論は、リーダーが理想化された影響力、インスピレーションの活性化、個別の配慮、知的刺激を提供することによって、集団の目標や目的に対するコミットメントを促進し、他のメンバーの態度や前提認識を変革(つまり、大きく変化させる)プロセスを力説する(2-4,27,34)。これら4つの行動は、典型的な公式のリーダーシップポジションにある人だけが発揮するのではなく、むしろ多様な人々が発揮できる(3)。SCCにとって重要なことは、Charbonneauら(7)が発見した、大学生アスリートが彼らのコーチが変革的リーダーシップ行動をとっていると認識すればするほど、彼らの内発的動機が高まり将来の運動パフォーマンスが高まるということだ。これらの結果は、軍事やビジネス、教育の場で行われた研究(2-4,7)で得られた結果と類似する。したがって、本論文の焦点は、公式と非公式リーダーの両方による効果的なリーダーシップを促進させるために、アスリート全員による変革的な行動の表出をどのように奨励すればよいのかを描き出すことである(上述の文献に加え、変革的リーダーシップを更に学びたい、より変革的なやり方で導きたいと思っているSCCは、次のリソースを勧める:Transforming Lives Through Coaching by Aubrey Newland of California State University, Chico)。


 

 いかがでしょうか。スキルや戦術コーチとは違った立場のS&Cコーチが、その特徴を活かして、アスリートのトランスフォーメーショナルリーダーシップ(変革型リーダーシップ)能力を磨いていく取り組みについて論じているものです。

 チームの中のリーダーシップは公式にキャプテンに位置づいている人だけが発揮するものではなく、誰もが非公式リーダーの可能性を持っているというのは面白いですね。そういえば、私の息子が所属するテキサス大学テニス部は明確なキャプテンを決めないそうです。基本的には最上級生が責任をシェアするという伝統があるようで、昨年NCAAで優勝したときにも3年生だった私の息子がトロフィーを持っていたり・・・。どのようなチームなのか、聞いてみると面白そうです。

 今回紹介したのは一番冒頭の部分で、スポーツにおけるリーダーシップについて少し広い視野から先行研究を概観した内容になっています。この論文では、このあと変革型リーダーシップについて話が進みますが、そこに入っていく前に変革型リーダーシップを抑えておく必要があると思います。ネット検索をしていろいろ調べてみていただければよいのですが、私の言葉で言うならば、他者の心に働きかけて、考え方や行動を「変革」していき、個人の満足にとどまらない、もっと大きな良い目的や目標を実現させようとするリーダーシップ、でしょうか。リーダーシップ理論については私ももっと勉強を進めていかなくてはなりません。

 これから4日連載で、この論文を紹介していくことになると思います。何人かのS&Cコーチの方には、既にこの論文に対するコメントをお願いしていますので、どこかの段階で、それらのコメントをまとめた記事を掲載したいと思います。


一連記事のリンク(2020年6月8日追加)



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